政策と産業の最新動向を伝え、解説する“クオリティペイパー”


第51回

『フレンチの王道』
-シェ・イノの流儀
井上 旭・神山 典士 著/文藝春秋(文春新書)/840円(税別)

「伝統」の継承だけでは「創造」は生まれない
数字や言葉では表せない感覚をつかむことが重要

東京・京橋にある、国内最高級のフランス料理店『シェ・イノ』。1984年の開店以来30年以上にわたり、政財界の重鎮や芸術家、セレブリティたちの舌をうならせてきた同店を一代で作り上げたオーナーシェフが井上旭(のぼる)氏だ。21歳で渡欧し、フランスの3つ星レストランで約6年間修業を積んだ。

本書では、日本のフランス料理を世界と肩を並べるレベルにまで押し上げた井上氏が、自らの遍歴とともに、フランス料理、フレンチレストランへの思い、「伝統と創造」についての考えなどを余すところなく語っている。

井上氏は、料理の味覚を変化させられる「ソース」を、フランス料理の大きな特徴であり「強み」と捉えている。日本料理では魚のお造りを用意する場合に、お客様の嗜好に合わせた醤油を出す店はない。だが、フランス料理では、料理人がソースそのものを最初の一口と最後の一口をも計算しお客様の嗜好に最適化していくのだ。

井上氏はその重要なソースづくりの「伝統」を三次元の味覚で「継承」することが、「創造」するためには必要だと考え、二次元のルセット(レシピ)だけでなく、師の作る姿を「映像」で覚えフランスから日本に持ち帰った。“名人芸”ともいえるソースづくりは、ルセットと「映像」で記憶した、数字や言葉では表わせないものの組み合わせで成り立っているからだ。ルセットだけでは「伝統」の単なるコピーになり、「創造」が生まれづらい。そのように無意識にでも判断したことが、井上氏が日本に築いた「フレンチの王道」の第一歩になったのだろう。(情報工場 編集部)

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