政策と産業の最新動向を伝え、解説する“クオリティペイパー”


多くの企業で現場の声を実現するのに苦労している。経営者は日々、従業員のニーズを、顧客のニーズを、そして社会的ニーズを本人が思っているほど満たせていない。現場の多様な知が必要であると皆分かっている。しかし、現実は必要な情報のほんの一部しか集まらない。

現実の声とは何か考えてみたい。
・「会議で、総論賛成、各論反対」結局やらないのか?
・「手続き通りやれば満足?」個人の事情は無視なのか?
・「本音を言うと、お前がやれ」責任を取れと言うのか?
・「今までやってきたのだから、問題ない!」本当か?
・「他人の意見を聞いてどうする」村社会にもどるのか?
こんな保守的な声が周りから聞こえてくる。

過去の結果としての今を重視することが、今の結果としての未来を重視することを無視しているように見えなくもない。ということは、先の解決策が見えないからだろうか?もし解決への道筋を示す実践が分かれば多様な知を受け入れることができるということか?それも理論に裏打ちされた方策であれば?

欧米のビジネススクールの成功事例を見ると、先の解決策を、経営側に任している。この成功に触発されて日本でもMBAを輩出する大学院が多く現れた。しかし経営(戦略)に偏ったMBAよりも技術(現場)と経営(戦略)を繋げるMOT(技術経営)がモノづくり日本では効果を発揮すると、新たに欧米で創設されたMOTを多くの大学が導入した。

MOTの特徴は、技術と経営を融合させることであるが、その本質は、技術(機械システム)と経営(社会システム)に関係した多様な知を結合させることである。

しかし、それで変化する時代の市場要求に応えられるのであろうか?イノベーションを起こすことができるのであろうか?実際には、人の生き方や人が係る物事の本質、市場競
争、顧客価値、自然環境の保全、企業倫理等々の多様な社会要請の知を、経営全体に絡めて適切に理解し、顧客や社会が評価する変化に対応出来る知の経営を行うことである。

これは、多様な個々人の能力を可視化し個人の自発性に委ねることを意味する。これこそが個の集積としての組織能力の最大化を目指す全体最適の経営である。こう考えると、自由奔放な個々人の多様な知を結合する実践力がなければ、イノベーションを起こす全体最適経営は達成できない。

(公認会計士、自治医科大学客員教授、慶應義塾大学SFC研究所上席所員、日本総合研究所フェロー、日本イノベーション融合学会理事長)