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日独が世界の水素サプライチェーン作りを ~ 急変する国際エネルギー情勢の見通しを聞く
コロナ禍におけるエネルギー価格の高騰に加え、ロシアによるウクライナ侵攻の影響を受け、国際エネルギー情勢は混乱を深めている。元IEA事務局長の田中伸男氏に今後の見通しについて聞いた。
――国際エネルギー情勢の見通しは?
短期的には、ウクライナ情勢によって最大の影響を受けるのは欧州だ。ドイツを代表に欧州各国はロシア産の石油、天然ガスに多くを依存してきた。
欧州はロシア産石油の輸入禁止に合意したが、その多くはタンカーで輸入されており、ロシアは中国やインド、アジア諸国に輸出先を振り替えることが可能だ。
一方、欧州への天然ガス輸出はパイプラインに依存しているので、液化施設の少ないロシアはすぐに輸出先を振り替えることはできない。
欧州はロシア産天然ガスに約3割を依存しているが、ロシア側から見ると、天然ガスの輸出先の7割以上が欧州国家だ。ロシア産天然ガスの輸入禁止は欧州にとっても苦しいが、ロシアの方が非常に痛く、計算外のことだろう。
――ロシア依存を脱却するには?
短期的には、ノルウェーや北アフリカからのパイプラインによる天然ガス輸入を増やすだろう。
もう1つはLNGだ。米国のシェールガス由来のLNGの輸入が大きく増加しており、ロシア産天然ガスの減少分の約半分をカバーしている。
ロシアによるウクライナ侵攻が起こる前まで、LNGは供給過剰で価格が下落すると予想されていたが、当面、LNGによる輸入が増加する可能性が見込まれることから、価格の高騰した状態がしばらく続くとみられている。
――日本にできることは?
日本がG7の結束を示してウクライナを支援することは必要なことだ。
もう1つ日本にできることは、原子力発電所の再稼働だ。1ギガワットの原発を再稼働すれば、年間100万トンのLNGを節約することができると言われている。原発を再稼働して、LNGの消費を減らし、一部を欧州にまわすということが、日本がすぐにできる非常に重要な貢献だ。
(中略)
――水素社会の実現に向けて
水素エコノミーを実現するためには、R&Dだけでなく、実装を目的とした補助金が必要だ。水素の大量消費時代を前提とした水素パイプラインが重要だ。
水素をパイプラインで各家庭に送り、定置型燃料電池で発電と熱源に利用するシステムを天然ガスと同等のコストで実現する補助金が有効だ。
ロシア依存をやめかつ原子力にも頼れないドイツは水素に大変力を入れているので、日独が協力して世界の水素サプライチェーンづくりを進めるべきだ。両国中心にグローバルなインフラやスタンダードをつくるよう協力することで、水素黄金時代がやってくるだろう。
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