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環境変化に対応する香料産業 ~日本香料工業会 桝村聡 会長に聞く
コロナ禍がようやく収まりつつある中、次はロシアのウクライナ侵攻による原材料やエネルギーの高騰と円安。その中で創立52年となる香料工業会(124社)はどう対応していくのか?業界の現況と見通しを日本香料工業会 桝村 聡 会長(高砂香料工業㈱代表取締役社長)に聞いた。
SDGsやコロナ後の対応を強化
――まず、香料産業の現状を教えて下さい
3年にわたるコロナ禍により、緊急事態宣言が繰り返され、在宅勤務と外出自粛が常態化し、国民の6割が生活習慣を変化せざるを得なかったとのことです。
食品香料については、ウイズ・コロナの生活に国民が慣れてきて、社会活動等がコロナ前に戻りつつある中で、需要も徐々に回復傾向にあります。当初は巣篭り需要で即席麺や冷凍食品が売れていましたが、最近は飲料関係。特にノンアルコール飲料やペットボトルのコーヒー、フレーバード・ウォーターなどが好調です。
香粧品関係では、外出機会の減少からメイクアップ用途は減りましたが、コロナ禍への備えとして石鹸、洗剤や除菌、殺菌効果を持つ衛生用途の製品向けの香料が増加しました。
このようなコロナ禍で、新たなコンセプトが生まれてきています。例えば、在宅での運動不足への考慮から、免疫力アップや糖質オフなどを求めた「健康志向」、内食では家庭内でよりおいしく、より良質な食材を食べたいという「本格志向」などがあります。また、マスクに紅がつかない口紅など、消費者の新たなニーズに応えるべく技術革新も進んでいます。
さらに、大豆等を使用した代替肉や昆虫食、アーモンドやオーツ麦等から作る植物性の牛乳代替飲料の開発など、新たな食品に向けた素材開発が進んでおり、これら一連の動きは香料の新たな用途が生まれる機会であると捉え、期待しております。
全体的に見ますと、香料産業の生産、販売は回復基調にあり増加傾向にあるとみています。今後は海外からのインバウンド需要も戻ってくると思われます。
――ロシアによるウクライナ侵攻の影響で、円安が急速に進んでいます。その影響をどう見ておられるのか?
わが国は原料のほとんどを輸入に依存しています。香料業界でも、化学合成品は欧州や中国からの輸入がほとんどです。これはいずれ、物流やエネルギーのコストにも反映されてきて、業界の企業の利益を圧迫する要因となるので警戒しています。
しかし、香料は添加物であり、その添加量も比較的少ないので価格への転嫁には時間がかかります。状況の説明によりユーザー側へは理解を深めていただくしかありません。
(中略)
アジア市場での日本の香料の良さをアピールへ
—今後の見通しをお願いします
香料業界は、生活必需品の供給を行う業種であるとの自負を持って、お客様の要望やその時代に合った香料を提案し、新製品が市場に提供される状況が続いてきました。
しかし、コロナ禍でそのトレンドは大きく変化し、このような生活スタイル、ビジネスモデルは今後も定着し、元に戻ることはないと思われます。
香料業界も戦略を一部練り直さざるを得ない環境下にあると思います。自宅で仕事をする人が増え、オフィス環境も変わってきました。働き方改革もあり、消費者のお金の使い方や、価値観もいろいろと変化していることから、それらをどのように取り込んでいくかが課題です。
さらに、日本では少子高齢化が進み、市場は縮小傾向にあることから業界における競争は益々激しくならざるを得ないでしょう。海外、中でも人口が多く経済発展の著しいアジア地域の国々は、魅力ある市場ですので、積極的に進出する企業も増えてくると思われます。
その際、日本のきめ細やかな対応は現地でも優位に働くと考えます。既に、品質管理システムの認証取得には各社が取り組んできており、業界としてSDGsに取り組むことで、世界に『日本香料工業会』の姿勢を示し、今後とも安心安全な製品開発、生産に努め、需要家に求められる製品を供給していくことに邁進していきたいと思っています。
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