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ロシアによるウクライナ侵略の影響を分析 ~通商白書2022
通商白書2022(令和4年度)が発表された。今年のポイントは、ロシアによるウクライナ侵略による世界経済の影響について、大幅にページを割き分析している。
ウクライナ情勢による不確実の高まり
今回の分析ポイントは、ウクライナ情勢による不確実性の高まりにある。世界の実質GDP成長率は、2022年は先進国、新興国とも大幅に落ち込むと予想され、インフレ率(年平均値)、CPI(消費者物価指数)が急上昇している。
また、肥料、エネルギー、食糧、金属・鉱物などのコモディティ価格指数は2019年の3倍から1・5倍に高騰している。
そして、グローバルでは①デジタル変革、②地政学リスクの増大、③環境・気候変動など共通価値の重視、④主要国政府による産業政策シフトーの4つのトレンドが加速していると捉えている。
白書は、第1部は「地政学的不確実のもたらす経済リスクと世界経済の動向」、第2部は「経済構造・技術・地政学・価値観の変化に対応したあり方:課題と機会」の2部構成となっている。
国際経済秩序の歴史的な転換点となる
ロシアのウクライナ侵略は、国際秩序の根幹を揺るがす行為であり、わが国として断じて容認できない。G7を中心とする先進国は、エネルギー分野を含め前例のない大規模な経済制裁を迅速に導入・実施し、ロシアとの経済・政治関係の見直しを急速に進めた。
これを契機に、冷戦後かつてない規模の経済的分断への懸念が高まっており、自国中心主義や経済安全保障の重視により、多極化が進行する国際経済の構造変化を加速させ、国際経済秩序の歴史的転換点となる可能性がある、としてい 他方、新興国・途上国の多くは、経済制裁などの踏み込んだ行為を控え、ロシアとの経済・政治関係に配慮した中立的な姿勢を示している。
ロシアとウクライナは経済規模は大きくないものの、小麦輸出ではそれぞれ世界1位と5位であり、エネルギー、重要鉱物等において、世界有数の産出国・輸出国であり、両国に依存する諸国では、供給途絶のリスクが懸念される。
ウクライナ情勢の短期的な収束が期待しづらい中、食料・エネルギーの国際諸所品市況は高騰しており、輸入依存度の高い諸国では国民生活への影響が懸念されている。
わが国では、中長期的かつ国民生活、安全保障の観点から、経済産業大臣を本部長とする「戦略物資・エネルギーサプライチェーン対策本部」を設置し、対策の方向性を示している。
世界的な供給制約の高まり
コロナ禍、世界経済の非対称な回復、急激な財政処置による需給バランスのゆがみ、中国のロックダウン、ロシアのウクライナ侵略の影響でサプライチェーンが混乱している。
海上輸送のコンテナ需給のひっ迫、陸上輸送の労働者不足、航空輸送の航空貨物スペースのひっ迫・燃料費高騰により、物流コストが高騰している。
原油価格は。経済回復による石油需要回復、天然ガス・石炭価格高騰の代替資源、侵略の影響から価格がさらに高騰。
エネルギーの海外依存度の高いわが国は、通貨安も加わり、交易条件が悪化している。また、異常気象による食料不作、脱炭素の急激なシフトによる肥料・食料などコモディティ価格上昇などで、エネルギーや食料の安全保障に影響が及んでいる。
先進国の金融政策正常化に伴う新興国への影響
2021年秋から多くの国で金融政策正常化への取り組みが開始された。新興国と先進国の金利差が縮小すると、先進国への資金移動が促され、新興国の通貨安が起きる懸念がある。
世界経済の動向
世界経済は、ウクライナ情勢に伴い、インフレ高進等の下方リスクがあり、先行き不透明感残るものの、コロナ禍からの正常化の進展が見込まれる。
注目点は、オンラインビジネスの急速な拡大、政府債務の動向、製薬等クロスボーダーM&Aなどの国際投資動向、貿易の偏在、テレワークの進展と住宅・オフィス市場への影響、デジタルデバイドがもたらす人的資本格差、経済のグリーン化と資源調達、ビジネスダイナミズムの重要性。
米国経済の動向
巨額の財政処置により消費が喚起され、コロナ化からの経済回復が進行している。インフレ高止まりの中、人手不足や物価上昇を映して名目賃金は上昇するも、実質賃金はマイナス。今後の経済成長を下押しする可能性がうかがえる。
欧州経済の動向
大幅な財政処置に支えられ回復基調も、ロシアによるウクライナ侵略により、エネルギー中心に大幅なインフレに直面、先行きは不確実性が高い。euは経済復興のため、グリーンとデジタルを中心とした産業政策を展開。気候変動・人権などの共通価値に関するルールメイキングで先行し、新たなグローバルスタンダード構築に注力している。
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