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すすむ分断・救世主なき停滞 ~住友商事グローバルリサーチ 住田社長に聞く
ロシアによるウクライナ侵攻が1年経過してしまった。それによるエネルギー価格や物価高騰が経済を直撃している。今後の見通しを住友グローバルリサー㈱代表取締役社長の住田孝社氏(写真)に聞いた。
世界経済の見通しが昨秋の時点ではかなり悪くなるとの予想があったが
昨年秋から年初にかけて極めて悲観的だった今年の世界経済見通しは、その後少し上方修正されつつあるものの、成長率は2%台と予想されており、「停滞」が共通の認識。リーマンショックからの立直り時の中国のような救世主が今回は見当たらない。その中国は、ゼロコロナ政策の突然の大転換により、昨年3.0%にとどまった成長率が今年は5%台になるとの見通しが出てきているが、不動産など不安要因が多く、楽観はできない。
欧州では、エネルギー危機とインフレが続き、昨年中は極めて悲観的な見通しだったが、暖冬のおかげでエネルギー需要が減ってエネルギー価格が下がり、一息ついている。それを反映して、今年の成長率見通しは上方修正されつつあるが、力強いものではない。
米国は、物価上昇率はピークを超えたものの、その低下スピードは遅い。このため、期待されていたような年内の金利引下げは遠のき、当面は金利上昇が続く可能性がある。その影響で、今年中のどこかで経済が停滞に向かう局面があるだろう。
先進国では成長率は0~1%台と見込まれる中、日本は1.8%と、先進国の中では一番高くなると予想されている。
貴社の年初のレポートによると、世界は「進む分断・救世主なき停滞」とあるが
1990年代の東西冷戦構造崩壊以降、グローバリゼーションで一つになった感のあった世界は、ここにきて「分断」が顕著になり、経済活動にも大きな影響を与えている。分断には、いくつかのものがあり、その1つはロシアを巡る立場の違い。ロシアに関連する国連決議では各国の微妙な立場を反映して棄権国も多く存在している。その中には、食糧やエネルギーでロシアと関係の深い、いわゆるグローバルサウスの国々が多く含まれている。
2つめは、米国の中東離れなどを契機として、OPEC+諸国と西側諸国との距離が開いていること。昨年10月には米国のバイデン大統領の強い要請を無視してOPEC+が減産で合意したのは象徴的な出来事だった。
3つめは、中国の影響が強まる地域といわゆる中国包囲網との間の分断。今や中国が中心的になっているSCO(上海協力機構)では、ロシアとの距離が広がる中央アジア諸国の中国との距離が縮まり、今後は中東諸国の正式加盟も予定されている。一方、QUAD(日米豪印)、IPEF(インド太平洋経済枠組み)、AUKUS(豪英米)など中国を包囲するような動きが強化されつつある。この両者に関係しているインドの動きがカギを握る可能性がある。
日本の見通しは
40年8カ月ぶりのインフレ率(12月は4.0%)の中で消費者マインドを停滞させないことが重要。他方、約29兆円の経済対策(補正予算)やインバウンド復調効果が期待される。4月の日銀総裁の交代後の金融政策の動向も注目される。
世界の分断がもたらすサプライチェーンの混乱・変更、ビジネスコストの上昇、エネルギーの安定供給確保の必要性の増大・コスト増なども注視する必要がある。その中でも脱炭素化に向けた新ビジネスへの機会は拡大するだろう。
対外的にはG7広島サミット(5月)は議長国として、日本のリーダーシップを発揮する好機である。米国との関係は一層強化されるだろうが、半導体関連規制では難しい判断も必要になる。中国との関係は、経済安全保障推進法が徐々に施行され、防衛予算増が進むなど、さらに厳しくなる。
日本の物価対策は
既に高いインフレに加えて、今年は家庭用電力料金の大幅値上げが予想される。多くの現役世代にとって、このような物価上昇は、社会人として経験がないだろう。
家計が困窮し経済活動が落ち込まないためには「賃上げ」は必須だ。例えばユニクロは年収の数%~40%アップを、40万人のパートタイマーを抱えるイオンは時給の平均7%アップを発表している。「政労使」が一致団結して「賃上げ」を推進する珍しい状況になっている。
インフレに負けないように、賃上げで消費マインドを維持・向上し、それが企業の業績を押し上げ、さらなる「賃上げ」を生む好循環が、日本にとって数少ない選択肢である。中小企業などが抱える課題を1つ1つ工夫して克服し、日本全体で良いサイクルが早く回るようになることを期待する。
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