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投資・イノベ・所得向上の好循環めざす ~経産省の産業政策を強化する「新機軸」
経産省は、2021年の産構審以降、世界的潮流から「経済産業政策の新機軸」として、産業政策の強化策を打ち出している。このほど、産構審の経済産業新機軸部会が第3次中間整理の概要を取りまとめた。
22年6月の第1次中間整理では、社会課題解決分野を成長エンジンと捉え、「ミッション志向産業政策」+「社会基盤(OS)の組替え」という枠組みで5-10年の中長期的に産業政策を大胆に行っていく方向性を示した。
大規模・長期・計画的に、予算・税制・規制・標準化のあらゆる政策を総動員する方針から、GX推進法(20兆円規模)、5G法(半導体支援)、スタートアップ(5カ年計画)、リスキリング(1兆円支援)、経済対策「国内投資7兆円支援」が打ち出されてきた。
要は、経済界のアニマルスピリッツに火をつけ、前向きな挑戦を後押ししていこうとするものだ。
23年6月の第2次中間整理から、「新機軸」を政府全体・官民へと拡大、この結果、国内投資は昨年、100兆円を超え、賃上げ、物価、株価が上昇、30年ぶりの変化(潮目の変化)が現れた。「新機軸」の成果が出始めた今、この変化を継続するために、国内投資・イノベーション・所得向上の好循環形成をめざしている。
国内投資フォーラムの創設、経団連が2027年度115兆円目標、国内投資促進パッケージ(11府省庁200強事業)や18施策を厳選した「中堅企業成長促進パッケージ」が次々、誕生している。
新機軸の成果が出始め、日本経済は大きく変化するチャンスを迎えている。「気を緩めてチャンスを逃すと、元の木阿弥となる。30年続いたコストカット型の縮み志向は2年では変わらない。ここからが正念場」と事務局は指摘する。
日本の長期デフレは海外投資と非正規雇用
こうした将来見通しに、日本企業・国民には悲観論が多く、その根本には人口減少への不安がある。日本の長期デフレは、海外投資と女性・高齢者の非正規労働力活用が原因で、人口減少が主要因ではない、としている。
国内投資の縮小、需要の低迷、価格上昇の困難に、中国の安価な供給力と、安価な非正規労働力が主因であった。
人口動態推計は2040年ごろまで大きな変化がないと予想され、不確実性が低い。世界的にも、中国を含め高所得・準高所得国で人口減少フェーズに入っている。
世界経済はグローバリゼーション時代から不確実性の高い時代に入っており、今後30年は需要に供給が追い付かない、インフレ圧力がかかる予想がある。経済成長のトレンドは、「高付加価値化により、一人当たりの生産性を高め需要を増やし、総需要も拡大する」方向にある。
インフレ型高付加価値へシフト
ここは日本を劇的に変えるチャンスである。インフレ型の高付加価値化へシフトし、「次の時代は『巻き返す15年』にしていきたい」、としている。
新機軸の産業政策による将来見通しによると、GX、DX、経済安保・グローバル、健康・包摂を踏まえ、今後の世界の需要・供給の変化がある。人口減少地域(日本、欧州、中国等)では、「良いものには値が付き」という価格上昇を通じた需要増に加え、①社会課題解決の価値化、②データドリブンでの新たな価値創造を通じた新需要が開拓されていく。
その意味で課題先進国の日本は有利な立場ある。また、人口増加地域(米国、新興国・途上国などのグローバルサウス)では、人口増・購買力増に伴う、取引量・単価の上昇による需要増が見込める。
一人一人が豊かな日本に向けた今後検討が必要となる施策については、国内投資では、今後100兆円の投資が継続されるように、半導体サプライチェーン強靭化に向けた、国内生産拠点整備・人材育成を進める。
国内で150GWh/年の蓄電池製造基盤確立、GXに対応した産業」・エネルギー構造のさらなる具体化、脱炭素エネルギーの供給拡大のための事業環境整備や脱炭素技術の社会実装の推進などを挙げている。
イノベーションでは世界の創造拠点として、付加価値の高い本社機能(研究機能含む)と生産機能だけを日本に残して、世界にチャレンジする。スタートアップや大学・研究所を含みイノベーションエコシステムを強化していく。
具体的には、AI性能の向上コンピューティングパワーの形成から、計算資源の確保やデータ環境整備、産業データ連携のウラノスエコシステムによるグローバル連携、CO2排出量取引制度(GX-ETS)の振興、バイオ、量子、宇宙などの先端領域のイノベーション促進などを挙げている。
生活の質の向上では、地域の産業・生活インフラや生活関連サービスは、デジタル・自動運転・ドローンなど活用し、運用していく。PHR整備やヘルスケアスタートアップの伴走支援、デジタルライフラインの全国的整備を進める。
従来の政策では「新興国」に追いつかれる
最後に、今後も「失われた30年」と同じ経済運営・企業経営を継続すると、実質賃金・GDP成長は横ばいにとどまり、新興国に追いつかれ海外に比べて「豊かでない」状況に陥る可能性が高い。
国内が貧しくなれば、経済的な資源やインフラ不足、技術発展の遅れが深刻化し、日本は世界と勝負できなくなる恐れがあり、社会の安定性すら失われる可能性がある、と警告している。
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