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成長・イノベーション投資を持続させる ~藤木俊光経済産業政策局長に聞く
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円安に物価高、2025年は米国にトランプ第2次政権が誕生する。その難しい経済産業政策の舵取りを任されている、藤木局長(写真)はどのような政策を打ち出していくのか?聞いた。
――先般、名目GDPが過去最高の610兆円を越えた。国内投資が連続して100兆円が続いている。この状況をどう捉えているか?
長らく日本経済が停滞してきた理由の1つは設備や研究開発などについての。海外投資は積極的だったが、国内投資が停滞していたからだ。もう1つは賃金が上昇しなかった。それらの要因が重なった。国内投資は23年に102兆円と、1991年以来30年ぶりに100兆円を越えた。24年の予測値は108兆円。25年もさらに伸びる予測が出てきており、足元の状態はかなり良い。
一方、賃金も連合の調査では、全産業規模で5.11%の上昇、昨年も3.58%と、3%以上の賃上げは久しくなかった。良い傾向が続いているが、一過性のものとしないよう、持続させていかなければならない。
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重要なのは、官民力を合わせて、将来の成長のためイノベーション投資をしっかり行っていくこと。官民で目標を共有して取り組んでいくことが、今とても大切だと思っている。
残念ながら、足元の景気を見ると、消費は横ばい傾向だし、生産関係の数字も見ても、上がったり下がったり。業種によって局面が違うが全体的には横ばい傾向にある。
もう一歩上向きになるように、投資と値上げの循環を回していくことが大切だ。
――国内投資の具体的な中身は?
やはり、GX(グリーントランスフォーメーション)やDX(デジタルトランスフォーメーション)が大きい。各社、環境への対応、情報化への対応が急ピッチで迫られていることは間違いがない。また、経済安全保障関係の投資がも支援してきている。
――昨年取り組んだ「国内投資促進パッケージ」の効果は?
パッケージの中で、特に新たな取り組みは、中堅・中小企業向けに、大規模投資を補助する政策です。3000億円の枠を作り、「10億円以上の投資に補助をする」と打ち出したら、1500件の応募があった。
うち194件を採択、競争率は7倍。非常に好評で、補正予算でさらに、3000億円の予算枠を追加する。
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この補助金の審査項目には、向こう3年間で賃上げをどの位しますか?という項目が入っている。
我々も新しい発見で、選考に漏れた企業は1000社も以上あり、新しい分野に挑戦する元気な中堅・中小企業が沢山あるということはとてもうれしい限りだ。中小企業政策は、さらに発展・充実させていくことが必要だと思う。
これらの企業の成果は、地域経済に与える影響、雇用に与えるインパクトも大きい。
――今年は米国にトランプ大統領が復帰する。また「アメリカン・ファースト政策」を強力に打ち出すのではと懸念が広がっているが
日本はアジアにサプライチェーンを展開して、世界と貿易をしており、こうした世界のネットワークにどのような影響を与えるか、見極める必要がある。「カナダやメキシコからの輸入に25%の関税をかける」とのトランプ氏の発言が既になされている。
交渉を通じて、結果そしてはより良い通商秩序を築かれて行くことを期待したい。1つ1つ乗り越えていくしかないと考えている。
また、結局は米国の国内政策がどうなるかという点も重要だ。バイデン政権で作られたIAR法(インフレ抑制法)、移民政策などが、どう変化するのかを見極める必要がある。
一方、戦略的パートナーとして、経済安全保障分野の重要物資の確保などを考えていく必要がある。
――今後の政策について
企業のGXやDX投資への取り組みが本格化しており、いろいろ効果が出てくるのではないかと期待している。以前から日本の環境技術には定評があり、世界的にもこれから需要が高まってくる。
また、デジタルやAIを主導しているGAFAMらの米企業が今は圧倒的だ。例えば、デジタル・AIとものづくり技術を掛け合わせれば、世界の交通システムや工場のオペレーションなどにツールを提供できる。
日本にもAIベンチェー企業も増えて来て、モノにサービスをのせていくなど新しい価値を生み出していける可能性がある。
――年6兆円に増加しているデジタル赤字についてはどうお考えですか?
データセンターの整備やAIの開発も、日本なりのやり方で進めて行くことが大切だ。
日本型のサービス、日本型の生産、日本型のプロダクションなど、必ずチャンスはあると見ている。そうしたAIベンチャー企業を応援していきたい。
――最後に
官民挙げて国内に投資をしていくことが重要だ。設備や研究開発、さらに人材投資。人手不足なので、一人一人の能力をどれだけ向上させ育てていけるか、重要だ。
税制や補助金の支援もあるが、さらに、成長やイノベーションに向けた企業の意思決定を後押しする施策に取り組んでいきたい。コーポレートガバナンスについて、リスクを取り、将来「稼ぐ」ためのコーポレートガバナンス、それに必要な政策を打ち出していきたい。
大阪・関西万博の工事も順調に進展し、4月の開幕を待つのみとなってきた。終盤は混雑が予想されるので、早めの見学をお勧めする。
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