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あらゆる産業がAI産業化 AIを徹底的に使いこなせ ~経産省 渡辺室長に聞く

世の中、生成AIがブームとなり、ソフトウエア・プログラムがAIで作れるようになってきている。人間の活動をすべてAIが行うにはまだまだ課題があるが、その範囲は広がっていくと見込まれている。現在、日本はデジタル赤字が年間6兆円を越え、ソフトウエアもネットワークサービスも入超が続いている。このままで良いのか?その点を経済産業省商務情報政策局情報産業課・情報サービス戦略室長 渡辺琢也氏(写真)に聞いた。
デジ赤の拡大は通らなければならない道
今、情報サービス産業は大きな変革が求められている。足下では、デジタル化による好景気で、人手不足が叫ばれている。しかし、今後は生成AIの影響で大きく変化が迫られることは間違いない。
――どのように変わる?
デジタルを使うユーザーの業務を徹底的に理解し、デジタル化を推進する主体と、AIなど高度なデジタル技術の提供主体に大きく分かれていく。
ITリテラシ―の高い人材が、日本ではベンダー側に7割、米国ではその逆でユーザー側に7割いるということはよく言われている。クラウドサービスが普及し、生成AIにより、自然言語でソフトウエアを作れる時代になれば、ユーザーごとの情報システムの作り込みは、ユーザーで内製化することが可能になる。ユーザーはそれにより、市場の変化に素早く対応することが求められる。一方、ベンダーは、ユーザーに対し、高度なデジタル技術や便利な共通サービスを提供することが求められる。
――生成AIやクラウドをさらに使うとなると、6兆円を超えるデジタル赤字はさらに増えていく?
これは通らなければならない道だと私は思っている。米国ビッグテック(いわゆるGAFAM)が提供する汎用的な生成AIやクラウドを徹底的に使っていくべきだと思っている。
AIの利活用を進めることで、汎用的なAIでは足りないニーズを生み出し、それに応えるAIを日本で作っていく。こうして日本のAI産業を育成していき、輸出も増やして、ひいてはデジタル赤字を減らしていくことになる。ここでいうAI産業は、一部の情報サービス産業にとどまらない。製造業やエンターテイメント産業、サービス業、あらゆる産業がAI産業化する。
汎用AIのプラットフォームを作るには、ここ30年で、デジタル技術や資本力で日米に圧倒的な差ができてしまった。違う勝負をする必要がある。
日本が強い産業ドメインごとに、より深いAIを構築していくことで、その強さが保てる。産業のノウハウや業務知識を盛り込んだAIを開発し、そのアプリケーションで勝負していくことが重要だ。
例えば、「おもてなしAI」や「自動車製造AI」など、日本の強みをAI化して生産性を向上させていく。領域特化した、深いドメインAIを作り、使い、世界に持っていく。今後は、ロボットとAIの融合が重要になってくる。こうした付加価値を日本で生み出していく。
AIは画期的なツールなので、強い産業を作る源泉となる。そのもとは結局、データとなる。匠の技術すら、デジタルデータ化すればプロダクト化できる時代に入ってきている。
経産省では昨年から、生成AI開発力強化のため、GENIACというプロジェクトをスタートさせている。AIの開発には膨大な計算資源(コンピューティングパワー)が必要だ。そのため、主にスタートアップ向けに、半年ごとに計算資源の調達支援を行っている。

昨年8月、大規模言語モデル開発の基礎体力作りための1期目10者による開発が終了、現在2期目20者がより社会実装に向けたモデル開発を行っている。
そこには、自動運転の実現に向けたTuring社や音声基盤モデルのプラットフォームを目指すKotoba Technologies Japan社、AI創薬に向けた基盤モデルを開発するSynthetic Gestalt社、フルスクラッチでの大規模言語モデルを開発するPreferred Networks社らが採択されている。
このプロジェクトは、他に国内外の開発者同士の交流促進と本格的なAIユーザーやデータ保有者との連携促進という狙いもある。
データセンターにGPU変革の波
いま、データセンターに変革が起きてきている。AIの情報処理に適したGPUベースの計算資源に大きな需要が生まれている。その計算資源の整備に対し、さくらインタ-ネット社やソフトバンク社が1000億円以上の投資を表明している。
米国ビッグテックが生み出すAIの背景には、圧倒的なコンピューティングパワーがある。コンピューティングパワーが国力を左右すると言っても過言ではない。
日本でも、コンピューティングパワーを整備し、さらに高度化させていく必要がある。そのためには、電力確保の面など課題がある。この変革の波に乗れるよう、政府としてしっかり支援していきたい。
(詳細は経済産業新報・本紙で)