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香りは文化のバロメーター ~日本香料工業会会長 桝村 聡氏に聞く

環境に安心・安全を届ける香料産業
あらゆるものに付加価値を添加する香料産業。100年企業が数多く存在する業界は、2025年どうなっていくのか日本香料工業会の桝村聡会長(高砂香料工業代表取締役社長、写真)に聞いた。
香料産業の今後の見通し
――昨年の香料産業はいかがでしたか?
2024年(1-12月)の香料統計によれば、販売の数量は横ばい(対前年比1%減)でしたが、金額では同2・2%増の2639億円とコロナ前の状況に戻ってきております。
内訳をみると、合成香料の販売が好調で同9・7%増、香粧品も同6・6%と好調でした。一方、天然香料(同2・1%減)と食品香料(同0・7%減)と横ばいでした。
輸出に関しては、食品香料の数量が同43%減となったものの、金額では同14%増の197億円となりました。これは為替が大幅に円安となり、価格が値上がりとなった影響が大きい。
輸入では香粧品が為替の影響で同12%増となってきている。国内では消費の回復や最終商品の値上げを受けて香料の販売金額は増加しました。しかし、原料価格、エネルギー価格の高騰等が大きく影響し、利益的には厳しい状況にあり、今後もこの傾向は続くと思われます。
海外への輸出に関しては、食品香料、香粧品香料ともに販売金額は伸びています。しかし、輸入に関しては、円安が続いていることもあり、原料となる合成香料の金額が減ってきております。これは、国内の合成香料の製造数量及び金額が大幅に伸びている状況から、国内での内製化が進んでいると考えられます。
――円安が業界に与える影響をどう見ておられますか?価格転嫁は進んでおられますか?
香料の輸入実績を見ると、天然香料と香粧品香料において輸入額が大幅に増加しています。これは原料価格の高騰をはじめ輸送コスト、エネルギーコスト、円安など複数の要因が重なったことによります。
昨年もこの傾向は続いており、香料の原料価格にも影響が出ています。旅行や飲食店がコロナ禍前の状況に戻りつつある中で、最終商品メーカー各社は値上げの実施や新製品の積極的投入を行っており、その結果 飲料・スナック市場などでは生産量が増加しています。
香料業界においては、各社とも原材料価格等の高騰に対する取り組みとして価格転嫁などの対応をすすめていますが、まだ十分な結果を得るまでには至っていません。
――トランプ関税の影響は?
我々の製品はそれほど米国に輸出しているわけではないので、影響は軽微です。しかし、米国に輸出している飲料や食料品メーカーらは25%の関税がかると大きな影響を受け、生産を減らしたりするので間接的に我々にも影響が出てきます。
開発力・イノベーションが日本の強み
――日本の香料産業の海外市場の開拓と国際競争力について、教えてください。
欧米には日本よりも遥かに規模が大きく、総合力にも優れた企業が数多くあります。しかし、日本の近代の香料産業は、日本の伝統や文化を背景に、欧米の文化、産業と融合しつつ、特有の研究や開発に裏付けられた形で発展してきています。
顧客企業様に対する香料設計などの提案力、きめ細かい対応など優れた面もたくさんあります。お菓子一つとっても、いろいろな美味しいお菓子を作れる開発力があることは日本の強みです。従って、是非もっと多くの食品メーカーさんが世界で活躍して欲しいと思います。
アジア太平洋地域や中南米、アフリカなどの新興市場では、人口の増加や経済成長に伴い、新たな消費者層が生まれることで需要が増加する可能性が期待されますので、世界の香料企業が進出しています。
これらの地域は香料原料の供給地でもあることから、香料原料を輸入調達する一方通行ではなく、香料製品を安定供給できるような現地での体制づくりも進められています。
また一方で、この数年の情勢から、産地の作柄等にも影響されず安定して入手できる体制の重要性を改めて認識しました。輸入に頼らず日本の生産者とタイアップした内製化への取り組みも行なわれています。
SDGsへ真摯に取り組む
――今後の香料産業の見通しをお願いします。
日本は、人口の減少とともに少子高齢化が進み市場はそれほど大きくならないと思います。しかし、産業界においては社会情勢や生活スタイルの変化に合わせ、いろいろな製品や新たな商品を開発する状況に変わりはありません。
また世界的な意識改革を求められている「持続可能な開発目標(SDGs)」は、限りある資源をいかに活用していくかを具体的な行動で求められており、真摯に取り組む必要があると考えています。世界の香料業界で取り組んでいる「サスティナブル憲章」に参加している日本の香料企業は、現在33社を数え、我々日本香料工業会の会員各社の意識も高くなってきていると感じています。
世界的に安定的な食料の調達が懸念されている今、新しい食品、食品の加工法の開発、材料となる未利用生物資源の探索など、香料産業の周辺においても研究開発・イノベーションは活発さを増しています。
今後は原材料に変わる代替品を開発するイノベーションが大事です。日本の技術開発力はレベルが高いので、逆にチャンスでもあります。スピーディに対応して行きたいと考えております。
(詳細は、経済産業新報・本紙(電子版)で)