社告  令和6年1月の能登半島大地震ならびに9月の能登豪雨に見舞われた被災者の皆様に 心よりお見舞い申し上げます。    経済産業新報社

ダイジェスト詳細

2020/07/20

エグゼクティブ向け短期集中連載講義 働き方改革による人財育成の危機 『イノベーション×デジタル』時代の人財の見極め方と育て方④「社内ナレッジと社外ナレッジを融合する」

前回は、働き方改革において「デジタル化の波」と「ビジネスモデルの多様化」に対峙する必要があり、そのために「ニュースキル」を身につける必要があることを説明した。ニュースキルとは、デジタル技術、今後顧客となるZ世代やα世代などの新しい世代の知識、ビジネスモデルの知識などで、多くは社内ではなく、社外にあるナレッジである。しかし、社外にあるものを単純に社内に導入しても上手くいかないので社内に受け入れられるよう調整が必要になる。これが、「社外と社外のナレッジ融合」であり、今回のテーマである。
「チャラ男」と「根回しオヤジ」がイノベーションを生む
早稲田大学でイノベーションを研究する入山章栄教授によると、イノベーションを起こすためには、「チャラ男」と「根回しオヤジ」という異なる二つの融合が欠かせないという。これは会社員と教育コンサルタントという二つの仕事をしてきた筆者も強く同意する理論である。チャラ男とはいつも社外で多くの人と飲み歩き、新しいものを仕入れ、会社でペラペラしゃべるチャラい(=軽い)男のことである。新しいアイデア、情報といった「社外ナレッジ」を会社にもたらすものの、チャラいだけで社内調整力が弱く、社外ナレッジを社内に生かすことができない。一方、「根回しオヤジ」とはチャラ男がもっていない、根回し(社内調整)ができる人物だ。経営層にものを言える力や社内の各部門を動かす影響力といった「社内ナレッジ」を持つものの、チャラ男が持つ社外ナレッジはもっていない。どちらか一方のナレッジだけではイノベーションが起こることはなく、チャラ男と根回しオヤジの社内と社外のナレッジ融合がないとイノベーションは起こらない。最も良いのは、一人でチャラ男と根回しオヤジの両方の力を兼ね備えているハイブリッド人材だが、なかなか育たないと入山教授は主張する。しかし筆者はチャラ男と根回しオヤジのハイブリッド人材こそ必要だと思う。このような人材は筆者が体系化している「社内政治力」を身につけてもらうことで育成可能だ。
「社内政治力」の6つの能力
Ⅰ関係部門に反対されず、協力してもらえる「社内調整を行う能力」
Ⅱ部下に自分の思うように動いてもらえる「部下を掌握する能力」
Ⅲ上司との関係を良く、支援してもらえる「上司を懐柔する能力」
Ⅳ社内に敵を少なくし、(味方を多く)、支援してもらえる「社内の人を動かす力」
Ⅴ社内・社外権力者との関係を強くし、話を通すことができる「権力者を動かす力」
Ⅵ社外での活動力、社外人脈を持つことで、社内発言力を強める「社外の人を活用する能力」
社外人脈で「社外ナレッジ」を手に入れる
今の時代に付加価値の高い仕事を行うためには、これまでの社内の常識(社内ナレッジ)にとらわれない新しい発想やアイデア(社外ナレッジ)が必要だ。仕事のやり方を変えたり、デジタル技術を使って業務を抜本的に効率化するには社内だけで発想することは難しく、多種多様な考え方、価値観をベースにした社外ナレッジの導入が必要になる。たとえば、ある会社で、まったく新しい価値を客に提供するための商品・サービスを開発する場合、その実現アイデアが社内では思いつかないことが多い。この場合、社外人脈と意見交換しアイデアを出したり、既に他業態、他国に存在する商品・サービスの情報といった社外ナレッジを集めることが必要になる。筆者も商品開発や新サービスを企画立案する際には、社外人脈との意見交換や情報収集をするが、自分では思いもつかなかった発想やアイデアを得ることが多い。このように新しい価値を社内に導入する際には、社外ナレッジはとても有効だが、問題もある。社内ナレッジとのコンフリクト(衝突)を起こすことだ。社内の常識である社内ナレッジに対し、新しい考え方である社外ナレッジは、社内にとって異物である。このため、社内で拒否されたり、無視されたり、攻撃されることも多い。特に、新しい考え方が既存の企業のメイン事業を破壊する可能性を持つ(いわゆる破壊的イノベーション)の場合、その傾向は顕著である。このような状況で、社外ナレッジの導入を推進する有効な打ち手に、社外人脈を使う方法がある。

「社外ナレッジ」を社内に導入するために「社外人脈を使う」
社外ナレッジを自社に導入するために極めて有効なのが、社外人脈を使う方法だ。主に新聞、雑誌、Webニュースサイトなどのマスコミ等影響力があるメディアを使い、取材を受けたり、ニュースリリースしたりして記事化してもらうことで、以下が実現できる。
社外(メディア)を使って行えること
ア社内で反対されそうな企画について賛成されるよう社内世論を誘導
イ客向けに新しい価値を持った商品、サービスPRして普及させる
ウ社内影響力を強化。
エ社外人脈を増やす。
ア社内で反対されそうな企画について賛成されるよう社内世論を誘導
これまで社内にないアイデアの企画は社内で反対されることが多い。これまで社内になかったのだから、その企画が良いと社内で評価することが難しいからだ。この場合、マスコミの社外人脈を通じて、その企画がもたらす価値を広く世間に知らしめることで、それを見た社内世論が動かされることがよくある。「新聞や雑誌記事になっているのか。これからはこういう企画が受け入れられるのか」と社内誘導できれば、新企画を社内で通しやすくなる。

イ新しい価値を持った商品、サービスをPRして普及させる
客向けに新しい価値を持った商品やサービスを提供して普及させたい場合も、マスコミの社外人脈は有効だ。顧客は売り手がPRするよりも、第三者であるマスコミや友人、知人の推奨や客観的記事に影響される。ただし、ステマにならないように客観的な記事として書いてもらう必要があることは言うまでもない。

ウ社内影響力を強化。
自分のやった新しいことに新奇性があり、価値を持ち、業績を向上させるものであれば、マスコミを使って広く世間に知らしめるために記事化する。それは社内では高い評価ポイントになるので、社内評価を高め、社内影響力を強化できる。影響力が高くなれば、社外ナレッジを社内に通しやすくなる。つまり、「根回しオヤジ」に近づくということだ。

エ社外人脈を増やす。
記事化は社内の評価を高めるだけでなく、社外に向けたPRになり、社外人脈強化に役立つ。筆者は、複数のメディア(新聞社、出版社、雑誌社、WEB記事サイトなど)に連載記事を寄稿したり、取材を受けたりしているので、社外人脈にマスコミ関係が多い。定期的に情報交換や寄稿をして関係を維持したり、人脈を増やすようにしている。

このように、社外ナレッジを社内ナレッジに融合することができれば、新しい価値を持つ仕事を効率的に進めることができる。(了)