ダイジェスト詳細
対談「マザーマシン産業 持続的成長のために」~産業機械シリーズ・JIMTOF60周年記念
マザーマシン(母なる機械)と呼ばれる工作機械。今わが国の工作機械が絶好調にある。わが国産業競争力の基盤を支えており、今や需要の約65%近くが海外となっている。今後のマザーマシンはどう変化していくのか?
JIMTOF60周年を記念して、産業機械シリーズ第2弾として、経産省の安田課長(写真左)と工業会の稲葉会長(写真右)との対談を行った。
<出席者>
経済産業省製造産業局産業機械課長 安田 篤 氏
一般社団法人日本工作機械工業会会長 稲葉 善治 氏
(司会) 経済産業新報社・編集主幹 高橋成知
1, 好調な受注の見通し
司会 わが国の工作機械産業の受注見通しが1兆7500億円と上方修正されているが、この要因を課長はどう見ている?
安田 好調な要因はユーザーである、グローバルに半導体や自動車産業向けなどが好調である点が1つ。2つめは、DXやカーボンニュートラルなどのいろいろな転換点が来ており、工作機械に求められる精度・機能が一段上がってきている。DXやGXなどのメガトレンドへの対応により、ものづくりの基盤たる工作機械へのニーズが増えているのが好調の要因なのではないか。
稲葉 工作機械業界は2018年にピークがあった。その後、米中貿易摩擦、新型コロナによるパンデミックなどの落ち込みが2年続いた。21年の夏ごろから、アメリカ、ヨーロッパでは、ウィズコロナの状態になり、これまで抑えられてきたペントアップ需要が溢れた。
国内は自律的回復に加え、政府がコロナ対策で投資補助金をつけ、需要を刺激し後押ししたことが大きい。内外需要が両方同時に上がり始め、高水準で推移している。8月までの累計によると、年間受注額は1兆7895億円位となり、1兆8158億円を記録した2018年の史上最高額に迫る勢いだ。
安田 中小企業向けの助成策の効果が上がってきている。ものづくり補助金や事業再構築補助金、税制面の優遇処置として中小企業経営強化税制の3つが大きい。
中小企業がDXやカーボンニュートラルに対応した設備更新、新規設備導入に活用できる助成制度である。ユーザーへの導入支援策により設備投資しやすい状況にある。
司会 欧米が先に盛り上がり、日本も追随してきた。世界的にも中進国でも高級な工作機械を使う国が増えてきた。最大の中国市場の動向はどうか?
稲葉 中国はゼロコロナ政策もあり、アップダウンが激しかったが工作機械の需要に変化が見られる。従来はローエンドの機械の主体の中国製の工作機械が大変伸びていたが、昨年末からブレーキがかかり、今夏にはそれが顕著に表れた。
しかし、高級機に対する需要はあまり落ちていない。ローカルの工作機械メーカーは苦戦しているが、日本からの輸出はあまり衰えていない。マーケットがだんだん高級機志向を表しているようだ。
半導体やIT産業が成長しており、高級機志向は今後も続くだろう。
(中略)
2,モノとコトは高度に融合化
司会 デジタル革命が世界を席巻しているが、今後のマザーマシンの役割、重要性はどうなるのか?
安田 マザーマシンは、製造プロセスも含め、ますます高度化し、製品もまた高性能化してくる。マザーマシンに求められる機能・性能はさらに高いレベルが求められ、それに対応できるのが日本製の工作機械である。
一方、メーカーはコトも拡充してきている。IoTを使ったメンテナンスやAIを活用したシステムを納入していくなど高度化しており、そこがグローバルに求められているのではないか。
稲葉 工作機械の世界は、質の面では日本とドイツが先頭を走っている。日本は生産性の高い、頑丈な機械に強みがある。性能、高信頼性、耐久性があり、何より素性がいい。剛性、精度、などの基本性能に優れている。
素性の良さがあるから数値制御が生かされ、益々使いやすくなってきている。
最近はAIを駆使しさらに進化しており、マザーマシンが高性能化してきている。そこが他国との違いになっている。
中国も最近はローカル企業のレベルが上がってきており、中級機の分野では、早晩キャッチアップが進むと思うが、高級機に関してはまだまだ差がある。そのため、常にリードを保つようR&Ⅾを怠らず、常に一歩先を行くことが大切だ。
(中略)
司会 最後に60周年を迎えたJIMTOFへの期待をお願いしたい。
安田 60周年おめでとうございます。今年は4年ぶりにリアルな展示会となり、海外からの招待客を呼べる、リアルとオンラインを併用した展示会になると聞いている。
デジタルとイノベーションを駆使した最先端のシステムリューションを日本から発信し、オンラインで見せる工夫もあり、新しい展示会となると聞いている。マッチングや商談が盛り上がることを期待している。
稲葉 今年はリアルの良いところと、オンライン魅力の良いとこ取りをして欲しと各社に要望した。
オンラインは、機械の中身を深堀して繰り返し見られる。広い会場をマッピングしながら効率よく回れる利点がある。IMTSでもそのような展示を心掛けていた。
リアルでは、切削している場面の熱気や活気、体温が感じられ、リアルでないと得られない情報もたくさんある。人と人との関係で工作機械は存在し、設備として工作機械を深く理解して欲しいと思っている。
前回は、インダストリ―4.0などのコンセプトに合わせた、近未来の夢のような展示が多かったが、今回は現実的にモノ・コトの両方が大事であり、モノづくりの土台である工作機械の性能、機能、特徴がしっかり来場者に伝わるような展示をして欲しいと各社にはお願いした。
その上で、AIやロボットなどコトに使える現実的なソリューション、現場にすぐ役立つソリューションを展示し、受注につなげて欲しい。海外からの入国に関する水際対策の規制緩和は時宜を得て本当に有難い。
(全文は経済産業新報・本紙で。電子版試読キャンペーン実施中。)