社告  令和6年1月の能登半島大地震ならびに9月の能登豪雨に見舞われた被災者の皆様に 心よりお見舞い申し上げます。    経済産業新報社

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2023/01/04

令和5年経済産業大臣年頭所感

(はじめに)

令和5年の新春を迎え、謹んでお慶び申し上げます。

 

昭和60年に通商産業省に入省したときの、日本の経済、日本の将来のために働きたいという初心と、入省後約15年働いた後に政治を志し、より大きな立場で日本の将来のことのために働きたいという初心、この二つの初心をもう一度思い起こし、改めて日本が抱えている様々な課題を乗り越え、日本の発展のために全力を尽くしてきたところですが、更に取組を進めていきたいと決意を新たにしているところです。

 

今、世界は時代の転換点を迎えています。気候変動、コロナ禍、ロシアによるウクライナ侵略という3つの危機に加え、特に日本においては、地域にも大きな影響を与える少子高齢化・人口減少という課題への同時対応が求められています。

 

(物価高・エネルギー高への対策)

こうした局面を乗り越え、強靱で柔軟な経済を構築するため、昨年の臨時国会で成立した補正予算を速やかに執行し、足下の危機に対応するとともに、日本経済を将来に向けた成長軌道に乗せていくための大胆な投資を後押しします。まず、エネルギー価格高騰に対して、電気・ガス料金や燃料油価格の激変緩和措置を講じます。併せて、LNG等の安定供給の確保や、省エネルギー対策の抜本強化を進め、エネルギー危機に強い経済構造への転換を進めます。

 

抜本的で大胆なGX推進

 

(GXの推進)

脱炭素社会の実現に向け、日本の経済・社会、産業構造のグリーン・トランスフォーメーション、GXを進めます。GX実行会議のとりまとめを踏まえ、安定供給を大前提に、再生可能エネルギーや原子力といった脱炭素エネルギーを将来にわたる選択肢として強化するためのあらゆる方策を講じてまいります。

 

再エネの導入拡大に向け、系統整備と出力変動への対応や次世代再エネ技術の開発、地域との共生に取り組みます。また、水素・アンモニアの大規模かつ強靭なサプライチェーンを構築すべく、必要となる制度の準備を早期に進めます。

 

原子力については、これまでと同様に安全性の確保を大前提としながら、原子力発電所の再稼働を進めます。次世代革新炉の開発・建設について、廃止を決定した炉の次世代革新炉への建て替えの具体化を進め、また、運転期間の延長については、現行制度と同様に、運転期間は40年、延長を認める期間は20年との制限を設けた上で、追加的な延長を認めることとし、更には、最終処分の実現に向けた国主導での取組の抜本的強化など、バックエンドの課題にも正面から取り組むことを含む基本方針案を取りまとめました。こうした新たな方針案について、立地地域や国民の皆様の御理解が得られるよう、粘り強く取り組んでいきます。

 

今後10年間で150兆円の投資

 

また、今後10年間で150兆円超の官民の投資を実現するべく、ロードマップに基づいて、GX経済移行債を活用した20兆円規模の大胆な先行投資支援や、カーボンプライシングの導入について方針を予め示すこと等を通じて、予見可能性を高め、民間投資を後押しします。企業が自主的に排出量の取引を行うGXリーグについては、実証事業やルール形成を進めているところです。

 

(対外経済政策)

国際秩序の根幹が揺らぐ中であっても、分断ではなく協調が重要であり、自由で包摂的な経済秩序の構築を我が国が主導します。デジタル経済に関する国際ルール作りを含め、インド太平洋経済枠組み(IPEF)、日米経済版2+2、経済連携協定やWTOといった枠組みを活用してまいります。

 

加えて、今年は、日本がG7の議長国を務め、日ASEANが友好協力50周年を迎える重要な年です。現地の持続可能な経済社会の実現に貢献し、同時に成長の果実を取り込むため、日ASEAN経済共創ビジョンの策定、サプライチェーンの強靱化やスタートアップ企業などによる協業の促進など、協力の具体化を進めます。あわせて、今年3月のアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)閣僚会合の開催などを通じて、アジアのGX実現に貢献します。

 

サプライチェーンにおける人権配慮を促すため、ガイドラインの普及や、予見可能性を高めるための国際協調を推進します。また、先端技術の輸出管理での対応に向けて同志国と連携します。

 

(中小企業政策)

引き続き厳しい事業環境にある地域の中小企業の資金繰り支援に万全を期してまいります。コロナ関連融資の借換えの円滑化に加え、新たな資金需要にも対応する信用保証制度を創設します。

 

サプライチェーン全体の共存共栄を目指す「パートナーシップ構築宣言」については、大企業での更なる拡大と実効性の確保に取り組みます。価格交渉促進月間の結果を踏まえた下請振興法に基づく親事業者への指導・助言の実施など、公正取引委員会とも連携し、取引適正化・価格転嫁対策を実現していきます。

 

併せて、逆境下においても、グリーンやデジタルなどの新たな取組に挑戦する中小企業を後押しするため、事業再構築や生産性向上、輸出拡大に向けた支援に取り組みます。こうした取組を進めることで、賃上げの原資を確保し、所得向上に貢献してまいります。

 

(成長投資)

足下の日本企業の設備投資計画は過去最高水準の伸び率であり、企業の投資意欲がこれまでになく高まっています。この変化の兆しを逃さず、投資を加速し、日本がしばらく忘れていたアニマルスピリットを取り戻したいと考えています。

 

昨年末には、官民を挙げて国内における成長投資を拡大させていくため「国内投資拡大のための官民連携フォーラム」を開催いたしました。産業界から過去最高水準の毎年100兆円の設備投資という心強い見通しも示されたところです。

日本の全ての企業、地域、人々が果敢に挑戦をしなければならないときです。政府の大胆な支援によって、民間の投資を呼び込み、イノベーションによって生産性を上げ、所得を向上させる。いわば、「投資とイノベーションと所得向上の3つの好循環」を実現していきます。

 

このスイッチを押すものが、今般の補正予算です。政府全体で、7兆円規模、かつ、複数年にわたる、戦略的な投資支援を盛り込みました。今こそ円安の機会を捉え、産業界が半導体、蓄電池やバイオの国内生産拠点の整備など、成長のための国内投資に取り組めるよう大胆な支援を行います。経済安全保障の観点からも、これら重要物資の安定供給確保や、先端技術の研究開発を大胆に推進します。

 

スタートアップ支援へ1兆円

 

また、中長期的な日本経済の成長に向け、イノベーションの担い手となるスタートアップ支援のため、1兆円規模の予算の確保と、強力な税制措置を行うなど、あらゆる政策資源を総動員しエコシステムを発展させます。日米共同での次世代半導体の技術開発を進めるとともに、創薬・バイオ、量子・AI、グリーンなどの支援の強化など、科学技術への投資も拡大します。クラウド、サイバーセキュリティ等の産業基盤確保や、デジタル時代の社会インフラ整備に向けた長期計画の策定、半導体・蓄電池分野を含めたデジタル人材育成など、デジタル社会の実現に向けた取組を進めます。

 

同時に、「人への投資」として、人的資本経営の推進とともに、リスキリングから転職までを一気通貫で支援します。賃金の伸びが低く留まってきた正社員の労働移動も円滑化することで、正規・非正規、社内・転職問わずキャリアアップできる環境を整備し所得向上へのスイッチを押します。

 

このように、予算だけでなく制度面も含め、日本全体で挑戦していくための政策を「経済産業政策の新機軸」として推進し、この中で、成長志向型の資源自律経済の確立、Web3.0ヘの対応も図ります。

 

基幹産業である自動車については、100年に一度の大変革を勝ち抜くべく、産業界との対話を深め、モビリティを軸とした成長の実現に取り組みます。

 

さらに、令和7年に開催される大阪・関西万博の成功に向け、取組を進めます。

 

(福島復興)

福島復興と東京電力福島第一原子力発電所の廃炉・汚染水・処理水対策は、経済産業省の最重要課題です。

 

廃炉に向け、燃料デブリ取り出しや、ALPS処理水の海洋放出への準備などを進めます。安全性確保、風評対策、漁業者の方々が安心して漁業継続できるよう基金による対策や、昨年末に立ち上げた「魅力発見!三陸・常磐ものネットワーク」を通じた「三陸・常磐もの」の魅力発信・消費拡大などに全力で取り組みます。皆様においても、ぜひネットワークへの積極的な参加・消費拡大をお願いいたします。

 

昨年、避難指示が解除された特定復興再生拠点に加え、残る拠点も解除に向けた取組を進めます。拠点外についても、帰還意向のある方が帰還できるよう対応してまいります。

 

事業・なりわいの再建や新産業の創出、交流人口拡大、福島国際研究教育機構における研究、映像・芸術等を活用した新たなまちづくりなど、福島復興に全力で取り組みます。

 

(終わりに)

今年は、十干十二支の「癸卯(みずのとう)」であり、これまでの努力が実を結び、勢いよく成長し飛躍するような年になると言われています。大きな耳で様々な音を聞き分け素早く飛び跳ねるうさぎのように、よく聞き俊敏に行動する、そのような一年にしたいと思います。日本が挑戦し変革していく姿を国内外に発信できるよう、新しい一歩を踏み出しましょう。

 

皆様のより一層の御理解と御支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

 

 

令和5年 元旦

経済産業大臣 西村 康稔

 

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