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金属燃料高速炉と乾式再処理で「Dirty Fuel but Clean Waste」モデルへの転換を ~ICEF運営委員会議長 田中伸男氏
提言 原子力行政に携わる後輩諸君へ
ICEF運営委員会議長 田中伸男氏 (タナカグローバル(株)CEO、元国際エネルギー機関事務局長)
60年かかるエネルギー転換のスピード
次世代原子力をめぐる議論をリードする経済産業省の後輩諸君に一言申しあげておきたい。
最初に申し上げたいのは現在の主流である大型軽水炉のパラダイムは残念ながら失敗だったと言わざるを得ないことだ。別添左はICEFの同僚ワクラフ・スミル博士がエネルギー転換のスピードを比較したグラフだ。
石炭が1840年に5%のシェアを達成した後、エネルギー供給全体の50%を占めるまでに60年を要し、石油は1915年から60年で40%、天然ガスは1930年から60年で25%を占めた。エネルギー転換にはより長い時間がかかるようになってきた。
一方で将来を見ればIEAのネットゼロシナリオなら自然エネルギーは緑のラインに沿って急拡大する必要がある。原子力についての同様のグラフを下に描いたが1980年代に5%を超えてから40年を経ても鳴かず飛ばず。将来ネットゼロシナリオで倍増したとしてもとても主流のエネルギーにはなれない。
TMI事故、チェルノビルそして福島と大きな事故が繰り返し起こることが原子力利用拡大を妨げてきた。スミルは、原子力は「Successful Failureだった」とする。鳴り物入りで大変な資源を投入しながらその結果は期待はずれだったからだ。私は原子力の失敗というより現在主流の大型軽水炉パラダイムが失敗だったのだと考える。
もちろん、すでに建てた大型軽水炉を安全性に最大限留意して再稼働し利用する、さらにその期間を延長することはコストとエネルギー安全保障の観点で正しい選択だろう。しかしこれまでの軽水炉の新設増設を凍結するという方針は福島原発事故が理由だった。
その原因に対するけじめと反省のないままエネルギーの安定供給を理由にしてこの方針を変えることには世論の賛同は得られまい。作戦失敗を認めないまま、ずるずると戦争を継続し、無駄に兵員と国富を費消した、日本軍の二の舞は繰り返してはならない。
トイレなきマンション批判に応えるIFR
原発反対派はまず原子炉の安全性を問題とするが、炉を小型にして事故が起こってもその影響する範囲を狭めると共に受動的安全性のある原子炉なら反対派を説得する論拠になる。標準化することでコストも下がる。SMRがそれだ。
反対派のもう一つの理由は、高レベル廃棄物処理の場所が決まらない、いわゆる「トイレなきマンション」という批判だ。これらに応えられるのが米国アイダホ国立研究所で計画された金属燃料高速炉と乾式再処理技術を組み合わせた統合型高速炉(IFR)だ。
受動的安全性が1986年に実験で証明され、処理された廃棄物は数十万年ではなく三百年で毒性が落ちる。これなら処分場の選択もはるかに楽になるだろう。そして反対派も納得でき、世界に誇れる安全な核のゴミ処理発電が可能になる。
わが国で原子力の将来について語るときにどうしても乗り越えなければならないトラウマは福島原発事故と広島長崎での被爆だ。まず福島だが福島第一原発廃炉における最難関は燃料デブリの処理だ。デブリは取り出した上で他県に搬出することは困難で、当面は保管するにしてもいずれ県内で処理するしかない。
これを可能にするのが金属燃料高速炉と乾式再処理であり、三百年のゴミならばなんとか県内に処分地を探せるかもしれない。
持続可能な原子力システムに転換を
次に、広島・長崎。ロシアのウクライナ侵攻と核による脅しは非核兵器国の間で核保有への誘惑を掻き立てる。被爆国日本は平和利用に徹するとともに兵器にしにくい技術で世界に貢献すべきだ。
金属燃料高速炉と乾式再処理はプルトニウムを使用しながらも核兵器を作りにくい、核不拡散性能の高い技術と認識されている。米国は核不拡散への懸念から統合型高速炉の開発を中断しているが、福島事故の処理、日本の持つ余剰プルトニウムの消費とウクライナ危機下での核兵器開発の拡大を防ぐために岸田総理には是非日米首脳会談においてバイデン大統領にこの技術の利用に関して協力を求めていただきたい。
福島に金属燃料高速炉と乾式再処理施設を建設するためには福島県民の理解が必要だ。キャノン戦略研究所の次世代原子力をめぐる研究会で福島出身の長山智恵子さんはこの施設が廃炉に貢献できるなら福島が「うつくしま福島」ではなくなっても世界に「つくすしま福島」になって再び立ち上がれるのではないかと言う。
是非諸君も福島と向きあい意見交換する勇気を持ってほしい。彼女のコメント動画はキャノンのサイトで見る。
なぜ金属燃料や乾式再処理が日本で実現できなかったのか。一言で言えばこれまでの議論が原子炉の炉型とその安全性に限定されていたからだ。炉の運転コストを下げるために燃料はクリーンに、ゴミ処理は他人任せというClean Fuel & Dirty Waste路線が取られてきたが、これを燃料サイクル全体の最適を目指すDirty Fuel but Clean Waste路線に変えることが必要だ。
福島出身の長山智恵子さんが、自らの障害を乗り越えて訴えられるのを聞いて私は大変感動し、大きな力を得た。今こそ金属燃料高速炉と乾式再処理というこれまでとは非連続的な「持続可能な原子力システム:Dirty Fuel but Clean Waste」に真摯に取り組むことが福島事故で失われた日本国民の政府、原子力関係者への信頼や世界の日本の技術全般への信頼を取り戻す唯一の方法であると信じる。
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