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2023/04/11

DX化、業務の標準化、プラットフォームが必要 ~15年ぶりに流通ビジョン

 40年ぶりの物価高の中、15年ぶりに流通ビジョンがまとまった。これは「物価高における流通業のあり方検討会」の最終報告書として3月22日に発表されたもの。副題は「よみがえるリアル店舗」。その中身を、取りまとめを行った経済産業省商務・サービスグループの中野剛志消費・流通政策課長(写真)に聞いた。

 

 なぜ今流通ビジョンなのか?と問うと、40年ぶりの物価高に直面している中、発足して70年目を迎えるスーパーマーケットをはじめ、わが国の豊かな国民生活を支えてきた流通業が危機にあるという。流通業はGDPで14%、労働人口で16%を占める大きな産業だ。混乱するコロナ禍でも変わらず高品質なサービスを提供してきたが、現在、仕入れ・エネルギー・物流などの大幅なコストアップに加え、消費者サイドに根強く残る価格抑制圧力、社会全体の「賃上げ」要請という3重のプレッシャーを受け、流通業がこの危機を乗り越え持続的に発展できるのかという問題意識からこの研究会は立ち上がった。

 

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 「今回の検討会の発端は、欧州のコロナ収束後の物価高騰が日本にも来ることを想定して準備していたもの。その後、ロシアのウクライナ侵攻が起き、エネルギーや食料価格が暴騰した。第一生命経済研の永濱氏や経済エコノミストの森永氏にも入ってもらい、マクロ経済の視点も加えてある」。

 2007年の流通ビジョン策定時はデフレ下であり、局面が全く違う。現在は、消費者物価指数が前月比4%も上昇する40年ぶりのインフレ状態であり、しかもかつてのインフレと違って、経済全体が低成長期の中で迎えるモノ不足・供給混乱によるコストプッシュ型の悪いインフレだ。

 「メーカーと消費者の間に立つ流通業は、これらのコストアップを現場の努力で凌いできたが、もはや限界に近く、労働人口の減少の中、中長期的には労働力の確保が危機的状況になると見込まれている」。

 

 今回のビジョンでは、供給混乱や人手不足といったリソース制約の危機を乗り越えるため、流通業のリソースに対する考え方を根本的に問い直し、長引く低迷していた生産性の向上を図る機会だとして、3つの目指すべき方向性を示した。

 「1つは、リソースの刷新。合理化・付加価値向上に向けたDXの推進。2つめは、リソースのシェア。サプライチェーンの効率化、垂直・水平方向の連携・統合。3つめは、リソースを価値創造に活用すること。消費者・地域のニーズを踏まえた多様化―である」。

 

 わが国の流通業は他の業種より賃金が低く、低賃金の労働力を前提としてきたが、今後は生産労働人口が2040年までに1430万人減少する。機械的な試算では、小売1店舗当たり10人減と見られている。生産性向上により、流通業に従事する「人」の価値を最大限引き出すような業務革新が求められる。

 

 

 「流通業にとって、生産性を向上させ、限りあるリソースの制約の中、ビジネスモデルを根本的に見直していくことが非常に重要だ。競争領域と協調領域を見極め、個社や業界の壁を越えた連携の深まりが必要なのである」。

 協調領域では、より大きな規模の利益が得られるような業務の標準化、プラットフォーム構築などの環境整備が必要だ。元来、流通には、垂直方向には多層構造、水平方向にも激しい競争関係があり、全体最適を目指すことが難しかった。しかし、自社の強みとは関係の薄いところで協調領域を形成し、生み出された余力・リソースを競争領域に投下してこそ、健全な競争が活発となるはずだ。「ここには様々な調整がいるため、政府のサポートが必要になる。今回の報告書では、政府の実証事業を合わせて紹介し、今後、このモデルらをトップランナー方式にして、成果を広く共有・展開していく方針だ」。

 

 今回の最終報告会では、唐津市のまいづる百貨店という地方小売のデータドリブンな改革による食品ロスへの取組、食品スーパー4社の首都圏SM物流研究会による長年の慣行を見直す同業同士の連携などが紹介された。

 流通業は、売上高等のいわゆるPL(損益計算書)の目線に偏った従来の経営から、リソースに注目したROIC(投下資本収益率)等の経営指標により中長期的に“稼ぐ力”を向上させていくような、収益構造改革が望まれている。

 「日本の流通業の生産性の低さは、丁寧さ、きめ細かさもあり一概には言えない。改革が進まないのは、現場の人が忙しすぎる面もある。

 流通業の持続的成長には、取り巻くマクロ環境の改善に政府が施策で対応していく必要がある。今後は、地域に不可欠な、公益的、生活インフラとして、ビジョンに示した通り、「人」の価値を最大限発揮して、この危機を乗り越えていって欲しい」と結んだ。

 

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