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世界のインフラを支える建機産業 ~(一社)日本建機工業会 本田博人会長に聞く
建機工業会が創立されて30年。2022年度の出荷額が史上最高の3兆円を記録した。今後の世界市場の伸びに支えられ、成長が見込まれる「建機産業」について、(一社)日本建機工業会 本田博人会長(キャタピラージャパン合同会社代表執行役員)に聞いた。
3兆円産業となった建機産業
―好調の要因は?
昨年度の建機産業は想定以上に回復力が強かったと言える。特にアメリカ市場の伸長が大きく寄与して、建機の需要が牽引された。加えて、国内需要も堅調に推移したことから、出荷額が3兆円の大台に到達した。内需は前年度比6%伸びている。
2023年度も、北米市場を中心に勢いが継続し、また、内需についても、公共投資や民間設備投資が伸びると見込まれることから、引き続き堅調に推移するものと見ている。
なお、米国の好調の要因としては、コロナ禍からの回復に加え、老朽化したインフラの更新需要や公共投資の活発さに支えられているものと思われる。
―世界市場で日本の建機シェアが高い理由は?
やはり日本の建機や油圧ショベルの強さは、1つ1つの部品をコンポーネントしてまとめており、その1つ1つに高い技術力を含んでいる点だと思う。
2つめは環境対応力が考えられる。省エネに関わる燃費性能など、今後のカーボンニュートラル(CN)にもコンポーネントの高い技術力で支えられている。
3つめは、作業の再現性、省人化に対応したICT情報化施工など、先進・革新的な建機を日本は先んじて開発しており、それがハード・ソフト面の優位性となっている。
加えて、各社ともサービス・メンテナンスを充実させており、「止まらない建機」に対し、不断の努力を重ねている点が大きいと考えられる。
3分の2が海外へ輸出される 高いコンポーネント力が競争の源泉
―日本で生産し7割を輸出する体制は今後も継続するのか?
前提として、消費地生産主義か国内生産主義かという点については、各社ごとに対応はマチマチとなっている。しかし、建機は重量物なので、一般論としてサプライチェーンを考えると、消費地に近いところが良いと考えられる。
他方、サプライチェーンは重要で、半導体や電子部品、エンジンなどのコンポーネントが集まらないと建機生産が止まってしまうリスクがある。
こうしたことから、今後の生産体制については、各社が進めているが、為替や地政学リスクなども加わり、当面は日本がマザー工場という形が継続するのが一般的ではないかと見ている。もちろん、同時に海外生産も進むと思われる。
―中国市場をどうするのか?
リーマンショックの時の建機市場は中国に助けられ、10%近くシェアがあったが、足元では1%台に下がっている。これの背景には、中国政府が建機メーカーを育成し、この結果、中国建機メーカーが数多く生まれたことが要因ではないかと考える。加えて、一定の技術力を有していて、安価であり、日々厳しい競争が展開されている。
この影響で中国における海外メーカーのシェアがどんどん下がっており、そこを狙うことが焦点となっている。
また、中国を消費市場と見るか海外生産拠点としてみるか、各社ごとの対応によるが、世界一大きな市場だけに見過ごすわけにはいかないと考える。
CN対策に向け、全電動化への動き
―カーボンニュートラル(CN)への対応は?
CNを課題・解決のチャンスとしてとらえる企業もたくさんある。建機各社とも建機工の中で部会を立ち上げ、CNの勉強会を通じて、横断的な取り組みを行っている。
昨年度国に対する要望書を提出し、CNインフラ整備やユーザーへの助成処置などをお願いしており、業界としてCNへの取り組みを前進させている。
3月に開かれた米コネクスポ展や昨年10月の独バウマ展では、各社がCNに対応した全電動の建機を参考出品していた。
日本の産業界が排出する温暖化ガスのうち、建機が出しているのは1・4%である。それをゼロにするためには、電動化に取り組むことや、燃費効率の2-3割の引き上げ、代替燃料の活用による燃費効率の向上、製造工程でサーキュラーエコノミーに取り組むことが必要となる。
要望書では、CNに対し、こうした取り組みへの支援や、国の規制や法律、決まり事などをまとめて欲しい旨をお願いしているところだ。
―今後の見通しと国への要望は?
不確実性の高まりから、今後の見通しは立てづらく難しくなっている。会員アンケートによれば、23年度は22年度に比べ、公共投資が増えると見ている一方で、民間投資、とりわけ住宅投資は23年度以降減少すると見ている会員が多くなっている。
こうしたことから、国に対しては、CNに関する研究開発への補助金等の支援、利用するユーザーへの税制優遇、公共事業におけるCN導入促進への優遇処置などをお願いしたいと考えている。
また、建機の3分の2が海外に輸出されることから、比較劣後することのないよう、国際的な規制や基準に対しハーモナイゼーションや整合性を保つようにお願いしたい。
2つめは、人的資源の不足への対応がある。建機業界では、人不足対応としてiコンストラクションによる省人化、無人化、遠隔操作などを開発し、工事の再現性の標準化を進めている。国もICT施工の普及に関して、直轄工事で優遇支援を行っている。
今後は、レベル4の無人自律走行や遠隔操作に対応した安全性に対するルールや規格作りをお願いしたいと思う。
最後に、少子高齢化により、建機のドライバーやサービスマンが不足していることから、建機工としても若者向けのPR動画などを作ってアピールしているものの、国としても就労支援などを応援して頂くと有難い。
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