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5軸の工作機械、もはや「芸術」 ~工作機械産業の今後のゆくえ
機械を作るマザーマシン、工作機械。モノ作りの競争力の源泉、最先端の技術が結集するJIMTOF2024の開催を前に、業界を所管する経産省の須賀千鶴課長(経済産業省製造産業局産業機械課長、写真)に現在の立ち位置と今後の方策について聞いた。
世界のトップを走る工作機械産業
本年7月の着任以降、様々な工作機械メーカーを見学させていただきましたが、いずれの会社も自社の技術力に誇りを持ち、世界中のユーザーからの多様な要請に応え続けてきたという自負と使命感を感じております。今回の第32回日本国際工作機械見本市(JIMTOF2024)では、過去最大規模となる1,200社超の工作機械関連企業が出展すると聞いております。世界トップクラスのシェアを誇るまでに成長し、わが国製造業の産業基盤ともいうべき工作機械産業の最先端技術や製品を拝見させていただくのを大変楽しみにしております。本見本市をきっかけに、さらなるイノベーションがひとつでも多く生み出されることを期待しております。
わが国の工作機械は高精度な加工を高水準で実現しており、寸分違わぬ精度で製品が加工されていく様子は芸術的な美しさです。近年は、5軸加工機や複合加工機を導入するユーザーも増えてきており、加工時間の短縮や省人化にもつながっています。
従来は複数の機械と従業員で行っていた作業が1つの機械で完結するというのは生産性の向上だけでなく、工場全体のマネジメントにも大きな影響を与えます。高度な機械やロボットが導入されることで、人は付加価値の高い作業や業務に専念することができますし、求められるスキルも変わってくるでしょう。機械と人間とがうまく役割分担して取り組むことが重要になります。
進展する工場のDX
近年は工場全体のシステム化も進展しています。仕掛品や完成品等の運搬を行う無人搬送車(AGV)により、工場全体が効率的に稼働するようになるとともに、このような工場内物流は省人化や従業員の負担軽減にも寄与します。また、摩耗した工具の交換もIoTやAIで工具ごとの最適なタイミングで実施することが可能となります。これによりコストカットや環境負荷の低減にもつながります。
また、3Dの設計図データを元にサイバー空間上でシミュレーションを行い、モノづくりを行うデジタルツインの技術も発展してきています。このような高性能な機械も見本市では多数出展されます。是非、実機に触れ、各社の発展に活かしていただきたいと思います。
積極的な国内投資への期待
工作機械は、わが国が技術優位性を有しており、経済安全保障上も極めて重要です。政府として、経済安全保障推進法に基づく「特定重要物資」に、工作機械と産業用ロボットを位置付けております。今後も積極的な投資や開発を行う事業者の皆様をしっかりとお支えしてまいります。
一方で、日本製の装置は頑丈で長持ちするため、買い替えを控える国内ユーザーが多い状況です。これは日本に固有の現象で、世界では多くのグローバルカンパニーが日本製の工作機械を次から次へと導入しています。工作機械はモノづくりの根幹であり、最先端の設備を整えることが競争力の確保につながるという考えによるものです。このような海外の動きに対抗するためにも日本のユーザーには前向きな設備投資をお願いしたいと思います。
ロボットの活用拡大に向けた新構想
DXのキーデバイスとなるロボットについても、さらなる活用拡大に向けた新たな構想を現在検討しています。現在、製造業のみならずあらゆる産業で慢性的な人手不足が深刻化しており、省力化や生産性向上に貢献するロボットはその切り札として期待されます。
世界的にもロボット市場は急拡大しており、とりわけサービスロボット市場の成長が顕著です。NEDOの調査によると、世界のサービスロボット市場は2.8兆円(ドローン含む)に達し、0.8兆円の産業用ロボット市場を大きく上回っています。しかしながら、日本企業のシェアを見ると、約66%のシェアを占める産業用ロボットと比べ、サービスロボット分野では約12%に留まっており、日本の産業競争力の観点はもちろん、国内の構造的・慢性的な人手不足に対応していくためにも、この分野への打ち手が必要と考えます。
今後注力していくべきは、製造業の中でも中小企業など多品種少量生産の現場、そして物流、小売、建築分野をはじめとするサービス分野へのロボット導入の実現です。これらの市場は、裾野は広いものの個々の市場規模は必ずしも大きくない、いわゆるロングテール市場であり、メーカーの開発投資が進みにくい分野です。加えて、これらの現場では、これまで大手製造業を中心に導入が進んできたロボットと異なり、幅広く多様な動作、予測が難しい事象、人との接近を伴う業務への対応といった機能が求められます。こうした現場へのロボット導入を進めるためには、ロボット開発の柔軟性や効率性、そしてロボット自身の判断・動作の自律性を飛躍的に高めていくことが不可欠です。
こうした課題認識の下、具体的には、多様なプレイヤーによるアプリケーション開発を促進するためのオープンなロボット開発環境の構築を進めます。このためには、ロボットの頭脳にあたるソフトウェア起点でハードウェアを柔軟に組み合わせて、柔軟かつ効率的にロボット開発を行える仕組みに転換する必要があり、ハードウェアのメーカーとの協力体制の構築が不可欠です。各企業の皆様と協調領域を形成しながら、ロングテール市場における供給制約を解消し、社会課題の解決を実現していきます。
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