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不確実性が新常態 企業変革力こそが競争力の源泉
製造産業局参事官・ものづくり政策審議室長 中野 剛志氏
わが国GDPの2割を占める製造業。ポスト・コロナの時代に今後、どうなっていくのか?それを踏まえたものづくり白書2020が発表された。そのとりまとめに関わった中野氏に、これからのものづくり産業の課題と展望を2回にわたり聞いた。
先般ものづくり白書2020年版を発表したが、今回の白書はポスト・コロナを踏まえ、そこをニューノーマル(新常態)ととらえ、今後の製造業の姿はどうなっていくのか?そのあるべき戦略を示したといえる。
それはなぜか?中国発のコロナウイルスによるパンデミックが起き、今までグローバルでの効率化重視であったサプライチェーン(SC)での部品調達が出来なり、寸断されてしまった。しかし、コロナが収まった後は、このSCを国内回帰に戻すのか?多元化するのか議論が起きた。
しかし、我々の議論のポイントは、コロナ以前からグローバルSCの再編・見直しが必要であると考えていた。コロナが終息しても元には戻らない、製造業が抱える課題はそれだけではないのだ。
英国のブレグジット、米中貿易摩擦、自然災害、地政学リスクが起きるたびにSCは動揺し、想定外のリスクに瓦解の危機を抱えていた。我々はこれを「不確実性」と捉え、問題意識を持っていた。
1月にコロナ起きて、大きなリスクとなったが、終息しても元に戻ることはない。グローバルSCを見直さなければまた新しいリスク(自然災害やサイバーセキュリティなど)が起きて、同じ過ちを繰り返すであろう。
今回の白書では、『不確実性にまみれた世界』に対応するため、どうすれば良いのかを真正面から捉えた、その意味ではニューノーマルと言える。
具体的には、政策不確実指数というデータがある。世界は2008年のリーマンショック以来、不確実指数は右肩上がりに上昇している。これがニューノーマルであり、これを前提と覚悟して、製造業、SCは大きく変わる必要があるということだ。
何が起きるかわからないときにどう戦略を立てるのか?ビジョンが立てられない中、どうするのか?我々は予測をしてから戦略を立てていくことは終わりにしたいと考えた。
結論は、何が起きても、不測の事態が来ても、企業が自ら瞬時に変革し、自ら変革できる、『企業変革力(ダイナミック・ケーパビリティ)』が重要である、と考えた。この考え方は、UC大バークレー校のD・ティ―ス教授が提唱した概念だ。「不測の事態が起きても、その変化に瞬時に対応し、リスクを最小限に抑え、組織の持つ経営資源や能力を再構成できる力こそが、企業競争力の源泉である」と彼は説いている。
不測の事態が次々、起きるときに、効率重視や利益重視を中心にすえると真っ先にダメになってしまう。そこで、今後の企業の生き残り戦略として、企業の持っているダイナミック・ケーパビリティを拡張させていこう、この考え方を中心にそえたのが今回の白書の第1のメッセージだ。
日本企業は実は、このダイナミック・ケーパビリティが高い。オイルショック、円高、東日本大震災など数々の不測の事態を乗り越えてきた経験がある。
2つめのメッセージは、ダイナミック・ケーパビリティを高めるため、デジタル化、DX(デジタル・トランスフォーメーション)化を進めて行こうと提唱した。
AIやIoTなどのデジタル技術の良さは、効率性や生産性を高められると同時に、不測の事態が起きたとき、安いコストで自らを変革できる能力を高めるところにある。
白書では各種DXの事例を紹介している。今回のコロナでSCが寸断されたのは、何をどこから調達しているのかがわからなかったからだ。IoTを使えば、SCのデータを取集し、今どこで何が起き、寸断されているかが感知できる。そこにAIを使い、どの流通ルートが最適か判断できるようになるのだ。そして、瞬時にルートの変更が可能になっていく。
2つめは、デジタルでは低コストで変種変量生産に対応できる。開発設計を効率化し、画面シミュレーションにより試作を省き、トータルのリードタイムを短縮していくことができる。
例えば、今回はシャープがマスクを作ったり、自動車メーカーが人工呼吸器を生産したりした。今まで数年かかっていたものを、瞬時に別の製品が作れる。このため、第2のテーマはダイナミック・ケーパビリティを高めるためのDXの取組みを加速させていくことが必要である。
そのDX化の具体例として、富士フイルムを取り上げた。デジカメの出現により、主力の写真フイルムが縮小する不確実性に対応し、医薬や再生医療などの分野に進出、企業の転換に成功している。少し懸念しているのが、最近の製造業が工程からデータを取集しようという意欲が衰えていること、デジタル投資がシステムの効率性を重視したコスト削減や維持・メンテナンス費やしている点だ。
本当はデジタル投資をして、ビジネスモデルの変化やデジタル人材育成に投資して欲しい。そのため、単なるIT・デジタル投資ではなくダイナミック・ケーパビリティを高めるためのDX投資を行っていって欲しいというのが第2のメッセージだ。
(次号につづく)