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2020/07/09

イノベーションの創出及びブランド構築に資する意匠法改正

特許庁審査第一部意匠課意匠制度企画室長 久保田大輔 氏に聞く

 

昨年、意匠法の大改正が行われ、今年4月1日に施行された。改正のポイントは、建築物や画像なども新たに保護の対象としたこと及びシリーズのデザインを保護しやすくしたことである。デザイン経営を推奨する同庁は、企業の国際競争力強化をデザインの側面から支援したい考えのようだ。

 

経済産業省・特許庁が2018年5月に公表した報告書「『デザイン経営』宣言」には、政府が推進すべき政策提言が記載されており、意匠法改正は、その一項目として挙げられていました。IoTやAIなどの新技術の特性を活かした新たな製品・サービスのためのデザインや、一貫したコンセプトに基づいた製品群のデザインなど、その保護対象を広げるとともに、手続の簡素化にも資するよう意匠制度の見直しを求めるものです。

(経済産業省・特許庁が、「産業競争力とデザインを考える研究会」を設置した背景や、同研究会報告書「『デザイン経営』宣言」の公表内容の概要については既報(2019年7月1日号 No.1828)のとおりです。)

これを受けて、産業構造審議会知的財産分科会意匠制度小委員会において、意匠制度の見直しについて議論が進められ、2019年2月に同委員会の報告書が公表されました。そして、この報告書に基づいて作成された改正意匠法案が、第198回通常国会にて審議され、2020年5月10日に可決・成立し、同17日に改正意匠法を含む「特許法等の一部を改正する法律(令和元年5月17日法律第3号)」が公布され、今年4月1日に施行されました。

 

今回の改正の大きなポイントは2つあり、一点目は、意匠法の保護対象の拡充です。

デジタル技術を活用した近年のビジネスでは、モノとしての製品よりも、ソフトウェアやスマホアプリなどを主体とするサービスが増えており、そうしたサービスにおいては、ユーザーとの接点となる画像のデザインが重要となっています。しかし、旧法では、「物品」以外のものは意匠法の保護対象ではなかったため、無体物である「画像」は、意匠権で保護することができず(物品の一部分としての権利化は可能)、模倣され、投資を回収できないといった事態が発生するリスクが絶えずありました。

また、近年は、ブランド表現の一形態として店舗デザインに工夫を凝らす企業が増えています。しかし、不動産である「建築物」や複数の物品等から構成される「内装」は、旧法では保護できなかったため、企業のブランド構築が阻害され、成長を鈍化させるリスクがありました。

そこで、企業がこれらをしっかりと保護し、更なるイノベーション創出やブランド構築活動を展開できるよう、画像、建築物及び内装の意匠を保護するための規定を整備しました。

なお、今般、「画像」、「建築物」、「内装」が新たに保護対象となりましたので、今後は、webアプリの開発事業者や建築・建設関連の事業者の方々は、自分が作成・建築するものが他者の意匠権を侵害していないか注意する必要があります。

過去に登録された意匠を調査するには、独立行政法人工業所有権・情報研修館(INPIT)が提供する特許情報プラットフォーム(J-Platpat)や画像意匠公報検索支援ツール(Grafic Image Park)の利用が効率的です。

また、こうした方々は、今まで意匠制度に馴染みがなかった方であることが多いため、彼らにも意匠制度について正しく理解していただけるよう、特許庁では説明会を実施したり、初心者向けの説明資料を公表しています。

 

 

二点目のポイントは、関連意匠制度の拡充です。

意匠権を取得するには、原則「早い者勝ち」であり、類似するデザインを後から出願しても登録できません。ただし、同じ出願人によるデザインであった場合には、一定期間内の出願であれば例外的に後出し出願を認めており、これを関連意匠制度といいます。

近年は、統一的なデザインコンセプトを、数年間一貫して採用し続けるブランド戦略がよく見られるようになっています。しかし、旧法では、関連意匠の後出し可能な期間は最初のデザイン(本意匠)の出願から意匠公報発行まで(約8か月間)となっていましたので、これを経過すると、その後にシリーズ展開されるデザインを関連意匠登録することができませんでした。そこで、今回の改正によって、この後出し可能な期間を、本意匠の出願から10年が経過する日前まで、と大幅に延長しました。

また、旧法の関連意匠制度では、本意匠に類似する意匠であれば関連意匠として登録が認められますが、その関連意匠には類似するが本意匠には類似しない意匠については、登録することができませんでした。しかし、同一のコンセプトを一貫して採用し続けたときに、一つ前のデザインには似ているけれども、その一つ前のデザインからは遠ざかる、というケースはしばしば見られます。そこで、今回の改正によって、こうした類似の関係が連鎖するデザインについても登録することを可能にしました。

 

特許庁としては、新たな意匠制度を活用していただき、企業等におけるイノベーションの創出やブランドの構築を積極的に進めていただきたいと考えています。現在、特許庁ホームページにて意匠法改正の特設ページを設けるべく準備を進めておりますので、公開されましたらそちらも是非ご覧ください。