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2021/02/01

今後のエネルギー見通し 2050年カーボンニュートラルに向け   グリーンアンモニア協議会や水素が面白い   原発の平和利用に大きく踏み込め  

ICEF運営委員会
笹川平和財団 顧問
元国際エネルギー機関(IEA)事務局長
タナカグローバル㈱CEO
田中 伸男
菅総理が2050年カーボンニュートラルを打ち出した。原発は使えず、LNGなどの火力発電に頼るわが国のエネルー政策はどう変わるのか?今夏までに
新しいエネルギー基本計画がまとまるため、田中伸男氏(元IEA事務局長)に今後のエネルギー見通しを聞いた。

わが国は今、多くの原子力発電所が止まっているため火力発電に大きく依存している。CO2削減のためには火力を止めるのが有効だが、それでは経済がもたない。今一番注目されているのが、石炭と水素・アンモニアの混焼である。火力発電の中で混焼すれば、CO2発生が削減できる。これには大量の水素とアンモニアの輸入が必要となる、LNGや石炭火力発電に頼るわが国はそのような絵を描くつもりだと思う。
グリーンアンモニア協議会や水素コンソーシアムが作られている。これは面白い動きになる。そのために2030年頃から準備して取り組まないと2050年のゼロ・エミッションに間に合わない。これはエネルギーの大転換になるし、新しいエネルギー基本計画の柱になるだろう。
さらに 原子力をどうするか真面目に考える必要がある。新規の大型軽水炉建設は難しいので、原発はリプレースなしにし、稼働年数40年を60年、60年を80年に寿命を延ばしていくのが一つの方法だ。
2つめは、その間に2030年までに将来の小型原子炉(SMR)を米国と共同開発していく。以前お話ししたのは固有安全型の統合型高速炉または日立GEの開発したプリズム炉だが、現在、多目的試験炉(VTR)という形で実験開発中で、米国エネルギー省のアイダホ国立研究所と日本の経産省と文科省が既にMOUを結んで共同開発しようとしている。従来のフランスとの協力に代わる流れがいまできつつある。
私はこれを福島第2発電所に実験的に持ってこようと提案している。この炉では塩水をかぶった使用済み核燃料の処理ができるし、高レベル廃棄物も少なく、30万年ではなく、たった300年で天然ウラン並みの毒性に落ちる。ここで将来取り出される福島第一発電所のデブリも小型高速炉と乾式再処理施設で処理できるし、「福島第2」は脚光を浴びるであろう。これが原発の進む道だろう、
もう一つ福島第2でやりたいのは、福島第一で貯蔵してい100万トンの汚染水からのトリチウムの分離だ。現在でも水で薄めて海水に流す方策を考えているが、漁業への風評被害や関係国などの理解が得られないので、いまだに出来ていない。
経産省が補助金を出し、ロシアのロスラオ社が開発したトリチウムを分離する技術がサンプトペテルブルグの近くで実験されており、要求水準以上の分離が可能だと証明されている。しかし、経産省の専門家会議の了承が得られない。
というのは国際ルールでは、トリチウム水は水で薄めて海洋に流すのがルールとなっており、いくら日本が事故を起こしたから特別だと言っても、トリチウムの分離がルールになられては困る人たちが多数派なので中々進まない実情がある。
これは、知的誠実さに欠ける。分離には400億円の装置が必要になるが、それに加えて水を蒸発するために電力代が年50億円くらいかかる。このためのアイデアは、福島第2の原発を再稼働させて、その電力を分離装置に使えば、99・8%トリチウムが除去できる。
残りの0・2%の成分は飲み水と同じ濃度だから海洋に捨てても何の問題もない。風評が起こるはずがない。ロシアの技術であり、彼らも日本の水産品の輸入禁止を解除せざるを得ないでしょう。それには韓国、中国にも右にならう可能性が高い
福島第2原発は、トリチウム水処理、デブリ処理、使用済み廃棄物処理に対し、とても重要な施設となれる。事故も起こしていないで廃炉にするには非常にもったいない。そこで余った電気は福島に無料で提供すればよい。
原子力の平和利用として、従来はコストが安くて、安全にきれいな電気が得られるという説明だった原子力だが事故を起こしてしまったため、その論理は崩れてしまった。今後発想の転換が必要になってくる。これから原子力は核のゴミ、廃棄物処置の炉として使うことにすべきであろう。
再生可能エネルギー(風力、太陽光)のコストが非常に下がってきており、ベースロードとしての大型の軽水炉の新設は難しいだろう。軽水炉は徐々に廃炉していくしかない。米国は変動する再生可能エネルギーと親和性の高い原子力はSMRだとして将来に向け、フレキシブル・ニュークリア・キャンぺーンを行っている。
それは小型炉が出力調整し易いという特性があり、小型炉をスマートグリッドにつなげて、地域分散型のシステムとして小型原子炉と再生可能エネルギーの共生を図るというビジネスモデルを目指すようだ。
日本は今後とも、原子力の平和利用のリーダーを目指すべきだと思う。 そのためには日本の持つプルトニウムについて諸外国が日本に対して持つ「核装備を狙っている」という誤解を解く必要がある。まず六カ所村と英仏にある、47トンのプルト二ウムの在庫のうち余剰の部分を国際機関であるIAEAに管理を任せることが必要だろう。
2つめは北朝鮮の非核化に向けた貢献に一歩踏み出す。例えば、北が持っている核兵器のプルト二ウムは40㌔㌘程度なので買い取って、六ケ所村の再処理工場で処理し、柏崎刈羽原発でしてあげるプルサーマル利用すれば北の核兵器を日本の原発で減らすことができる.つまりで原子力の平和利用で日本は世界の平和に貢献していると胸を張ることができるだろう。
これは米国も大歓迎するはずだ。平和利用をすすめるためのNPT(核不拡散条約)は失敗だった。 核兵器国は北朝鮮を入れて、9カ国にまで増えてしまい、機能不全を起こしてきている。他方核能力を持つが兵器を持たない国は50か国にのぼる。 この際、日本は平和利用の意図を内外に示すために核兵器禁止条約に加盟し、これらの核を持たない国のリーダーとなるべきであろう。その上で国連の安全保障理事会に非核保有国の代表として常任理事国になることを求めれば中国も反対できまい。日本は米国の核の傘の下にあるとは言え東アジアでの中距離核の禁止条約を求めるなど、核兵器削減、また廃絶に向けて世界に貢献していくという「とんがった外交」を今こそ始めたらどうだろう。(つづく)