社告  令和6年1月1日にM7・6の能登半島大地震に見舞われた被災者の皆様に 心よりお見舞い申し上げます。    経済産業新報社

トピックス詳細

2024/08/25

世界初のフル電動クレーンを市場に投入 ~インタビュー タダノ 氏家俊明社長

日本・ドイツに主要拠点を持ち「One Tadano」のメッセージのもと、LE(リフティング・イクイップメント=移動機能付き抗重力・空間作業機械)分野で世界のトップを目指すタダノ。チームを引っ張る氏家俊明社長に現況と展望を聞いた。

 

静かな音のない工事現場

 

最大能力3200トン吊りの建設用クレーンや、最大地上高52・8㍍の高所作業車を生産する、建設機械メーカー大手のタダノ。このほど新たな環境対応商品を市場に投入した。
「昨年、我々は世界初となるフル電動のラフテレーンクレーン『EVOLTeGR-250N』を発売した。これは脱炭素社会実現を目指して、CO2排出ゼロの工事現場実現に取り組む方々に向け、電動でもディーゼル製品と同じ仕事が可能であることを見せたかった」と語る氏家社長。

 

EVOLT eGR-250N
世界初のフル電動ラフテレーンクレーン「EVOLT eGR-250N」

 

電動化で現場での騒音は大幅に改善し、CO2やNOxの発生もゼロに。購入客や試用したゼネコン各社からも静音性やトラブルの少なさで好反応を得ているという。

しかし充電インフラがまだ社会的に少なく、価格も従来機の約3倍。「即座に従来機と置き換わるとは考えていない。ただ実際にマシンがないと検討もできないので、先行的に市場投入した」。

 

100年以上も同族経営が続いてきた会社で、創業家以外の人間が初めて7代目の社長に就いた。「現会長からは『世の中を変えるのはよそ者、ばか者、若者だ』と言われた。外から来た私だからこそ貢献できることがあると考えた」。ガバナンス体制は大幅に刷新され、現在は社外取締役が5名、社内取締役が4名。自由闊達な議論が交わされ、大きく変貌しているという。
昨年の連結業績は、米国の好景気にも引っ張られ売上高2800億円と史上最高水準にあり、極めて順調に推移している。現在取り組む大きなミッションは2つ、気候変動対応(2050カーボンネットゼロ)と海外生産拠点の最適化だ。
同社では今後の地球環境問題の解決に向けた「Tadano Green Solutions」をグループ全体で打ち出している。
「この取り組みを加速させるため、新中期経営計画でも脱炭素化の加速を第一に掲げた。2030年までにCO2排出量を事業活動で25%、製品で35%削減するのが目標だ」。前述のフル電動製品開発・発売もその一環であり、同社の戦略を建機のみならず幅広い業界の皆さんに理解してもらいたいと語る。

 

日独米それぞれの強みを生かし、最適なものづくりへ

 

同社は日本国内に6工場、ドイツに3工場、米国に1工場を持つが、中国、インド、タイにも生産拠点があった。クレーン市場は建機の中でもニッチな市場であり、油圧ショベルに比べると生産台数自体が少ない。中国市場は最盛期5.5万台のクレーン需要があったが、不況で需要規模が急減、2万台にまで落ち込んでしまった。
「中国生産の余剰分を安価でインドや東南アジアなど国外に差し向け、売りさばくのでは競争が苦しい。また、タイの生産では重いものを持ち上げられる軽くて強い

「高張力鋼」(ハイテン)の入手が難しく、製造面で非常に苦労が多かった。インドには合弁会社を設立し新製品開発にも取り組んだが、どちらかといえばハイエンドな当社製品の強みが現地市場のニーズとマッチしづらく、技術流出も激しかったため、いずれも閉鎖の決断に至った」。
ドイツを中心とした欧州事業は同社のコア事業の1つで、3工場で年750台の生産キャパシティを誇るが、コロナ禍や不況の影響もあって、長く採算性に苦しんでいるという。

 

「中期経営計画では世界最適生産を掲げ、ドイツ・日本それぞれの強みを活かした生産体制再編に取り組んでいる。自動車とは量産規模が違い、消費地生産主義というのは難しい。専用の機械と固有の技術が必要だからこそ、機種ごとに集約するほうが生産効率は高い」。

 

脱炭素製品ラインアップ拡充

 

世界のトップを目指すための課題は山積みだ。「すぐに電動化導入が難しいお客様向けにe―PACKという外付け機器も販売している。現場まではエンジンで走行し、作業現場では電動で作業できる、いわゆるハイブリッド型だ」。環境対応製品の普及にはバッテリーや関連部品の調達、クレーンを架装するトラックの進化など他の課題もあり、政府・各省庁にも働きかけ、普及に対する支援・優遇措置などを働きかけている。フル電動クレーンは環境省のGX建機に指定された。

「都心に比べると情報のスピードや便利さは及ばないかもしれないが、当社の社員が地域で生き生きと暮らしてくれているのを見ると、豊かさとは?と考える。私も東京から香川に居を移し、毎日瀬戸内海を眺めてリフレッシュしている」と笑って答えてくれた。

 

今後タダノは氏家社長のリーダーシップのもと、大きく変貌していくと実感した今回の取材であった。

 

◎お詫びと訂正

先号15号10面において、株式会社タダノ様のプロフィールに誤りがありました。東証プライムコードは6395、従業員数:単独 1,596人、連結 4,686人(2023年12月31日現在)、売上高:2,802 億円(2023年度)。ここにお詫びして訂正します。(編集部)

 

(詳細は経済産業新報・本紙で。電子版試読キャンペーン実施中。)