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蓄電池でエネルギーカンパニー目指す、パワーエックス ~インタビュー 期待のスタートアップ
大型蓄電池のスタートアップ、パワーエックス。伊藤社長(伊藤 正裕 株式会社パワーエックス取締役兼 代表執行役社長CEO、写真)は17歳のときからベンチャー企業を立ち上げ、前職ののZOZOグループでは前澤社長に認められ、新規事業開発に関わった。3年前に同社を創立、瞬く間に232億円の資金が集まって、岡山に巨大工場を建設、蓄電池で世の中を変えようと猛スピードで事業を始めている。伊藤社長に狙いと見通しを聞いた。
再エネには蓄電池が最適
―なぜ蓄電池なのですか?
「まず、日本の脱炭素(CO2ぜロ)の状況を見たとき、再生エネルギーの柱は洋上風力発電だ。しかし日本近海は欧州の北海と違い、水深が深く高圧の海底ケーブルを敷設するのは容易じゃない」。
そこで、電気運搬船を考えた。船で蓄電池を運んでする。地上では蓄電池を充電すれば済む。蓄電池の分野をやろうとする人はいない。ライバルは外国勢ばかり。これはチャンスだと思い飛び込んだ、そうだ。
実際、岡山県玉野市にある日本最大規模の同社の蓄電池工場では稼働させていて、ほとんど太陽光と蓄電池で電気を賄い、系統電力を使わない日もある。日本中がこの蓄電システムをもし導入すれば、直ぐにでもカーボンゼロは達成できるのだ。
一番重要なソフトウエア制御
「われわれはセルを購入してパッケージ化して蓄電池モジュールを作っています。まずは大型の30トンと型の5~6トンから始めています。蓄電池の一番重要なのがソフトウエア制御なのです」。
「蓄電池が一番パフォーマンスを発揮するよう、最適な状態(温度、電池残量など)をコントロールしています。例えば、私のタブレットから、パワコンの温度とか電池残量、出力したキロワットアワーが基本的にこの管理画面で見られるようになっている」。
ここは重要なポイントである。日本が使っているEVの電池残量は中国の企業も同じように管理している。例えば、国の指令で電池を止めろと言われれば可能なのだ。
これは安全保障上、非常に問題で、高度なソフトウエアの入った畜電池が完成品で入ってくると、ソフトウエア開示義務のない中、ギガ単位で蓄電池導入をどんどん進めるのは危険である。ソフトウエア制御管理は全て日本製にしていく必要があると考え、準備をしているところだ、そうだ。
―しかし、蓄電池のセルは中国製がほとんどではないですか?
「蓄電池のセルは現在、コモディティ化していて、中国製が一番安い。中国がダメなら、少し値段の高い韓国製もある。セルは乾電池と同じ、+の端子と-の端子があるだけ。日本のメーカーもいますが、日本の需要が2~3G /時しかないので作れません。15GW/時の需要がないとペイしないので作れていないだけです」。
チャイナ・スピードで作る
―創立3年でどうしてここまで出来るのですか?
人材募集をしたところ、2700名の応募があり、あらゆる分野の専門家を50名雇い入れた、そうだ。自動車やソフトウエア、電気などの専門家集団が同社内で形成されている。
「アメリカで最近、よく言われるのが『チャイナ・スピード』。中国人の速さで作らなければいけない。蓄電池の強豪は全て中国であるから負けないスピードで日本もやらなくてはいけない」。
今、玉野市に30トンクラスの蓄電池組み立て工場と中型(5~6トンラス中型工場を立ち上げている。現在の組み立て工程は手動だが、徐々にロボット化・自動化を進めたいと考えている。
ソフトウエアで付加価値を付ける
―今後の課題は?
「2つある。1つは、米国向けの60トンの蓄電池を作ると、日本の道路規制で50トン以上のものが運べない。もう1つはこの定置蓄電池のおける場所が限定されている点だ。電力設備は、系統電力に接続義務があるが、蓄電池は内陸の山間部に限定されている点だ」。都市内にあれば、“夜間太陽光”電力として、CO2削減にも貢献できるのに残念だ。
「現在は売り上げを稼ぐために大型蓄電池を扱っているが、将来は家庭用の蓄電池も手掛けていきたい。ハードにソフトウエアで付加価値をつけないと利益を生まない。蓄電池のハードとソフトウエアを両方作れる、“付加価値製造業”でなければ今後、生き残っていくのは難しい」。
最近研究しているのが、天気予報や電気代の予測、運転スケジュールをAI使って最適化できるソフトウエアを開発している。勝手に充電したり送電したりも自由に判断してくれる優れものだ。
「米国や中国の最近のスタートアップ企業は、テスラをはじめ製造業に取り組む企業が台頭している。一方、日本の新興企業はeコマースやIT企業が多く、東京一極集中が止まらない。我々のような新興製造業であれば、地方に工場を投資し、人を雇用し日本全体を活性化することができる」。
人手不足と少子高齢化が一度に来ている日本にとって救世主のような企業が令和の時代に生まれてきた。パワーエックスの生み出す世界が実現できるよう応援したくなるような、伊藤社長であった。
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