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2024/11/04

デジタル技術の社会実装に貢献するJEITA ~JEITA長尾専務理事に聞く

メーカーとユーザーが一体でデジタル競争力を強化

 

 JEITA(電子情報技術産業協会)の定款が変わり、いまやユーザー企業も集まるデジタル産業の総本山に大きく変貌している。CEATEC25周年開催に当たり、長尾専務理事(写真)に話を聞いた。

 

団体の使命が大きく変わる

 

――JEITAはここ数年で大きく変わっています

 半導体、電子部品、家電、コンピュータなど様々なエレクトロニクスに関わる企業が加盟していた2つの団体が合併して「電子情報技術産業協会」と名前を変えたが2000年。これからは単なる足し算ではなく、デジタル産業の掛け算にしていこうと、2017年に団体の定款を大幅に変更して、デジタルを活用する産業に会員の門戸を広げた。
 デジタルを活用する産業と、提供する産業が一体で関わらないと本当のデジタル社会は実現できないので、ミッションを明確に直した。デジタルテクノロジーの社会実装をし、日本社会に貢献することがミッションだ。
 この変革の過程で、会員企業が入れ替わった。今や旅行のJTBや警備のセコムが副会長会社を務め、正会員が増えたことで、会員企業も400社近くに戻ってきた。

 

――中身が入れ替わっているのですね

 電子部品の分野はいまだに世界シェア40%を占めている一方、デジタル産業の中でシェアが低下しつつある分野もある状況だ。
 我々は何を目指しているのか?それは日立製作所を見るとわかる。日立はデジタルイノベーションの会社に変貌した。ルマーダを中核にして鉄道システムや送電システムなどあらゆる分野のデジタルイノベーションを加速させる事業に取り組んでいる。今や、トヨタに次ぐ日本では2番目の時価総額を誇る企業だ。我々もミッションを変え、考え方を変え、事業を変革してきた。

 

大事なのはオペレーションシステム

 

――世の中、オペレ-ションシステムとソフトウェア開発力が重要になってきていますね

 自動車をはじめ、あらゆるものがオペレーションシステムで動いている。ソフトウェアが重要となって久しい。ハードウェアも大事だが、ソフトウェアを磨き続けないと、ユーザー体験を劇的に変えることはできない。

 

――日本は自動車産業一本かぶりです。デジタル産業はどう競争力を高めていけば良いのか?

 今、「デジタル赤字」と言われていて、これが減るかどうかがインジケータとなる。ユーザー側のデジタル実装をどう促進するかが一番重要だ。AIとIoT、そしてそれらを使うソフトウェア開発力を我々サプライヤーとユーザーが協業して作っていくメカニズムを作らないといけない。

 

CNは日本ならではのルールメイキングを

 

――CN(カーボンニュートラル)ではコンソーシアムを設立しましたね

 カーボンニュートラルのマクロの話とカーボンプライシングのミクロの話を正しく理解する必要がある。プライシングは個々の企業、個人がCO2を出すことによるコストの計算である。
 これを解決する唯一の手段がエンドユーザーを含めたサプライチェーンにおけるデジタルによる信認モデルである。産業連関分析をベースとするカーボンニュートラルというマクロの課題をScope1,Scope2,Scope3におけるミクロのカーボンプライシングに分解する調整メカニズムの構築が必要になる。これまでのアナログ時代では、エネルギーネットワークの中核である電力会社や特定のエネルギー多消費産業に依存するいわゆる「仲買人」モデルだったが、カーボンプライシングの根本である公平性を担保しようとすればデジタルによる信認モデルが必須になる。ブロックチェーンを使えば完璧だが、そこに至る過程においても相互に信頼が確保されたデジタルデータを使えば近似的なシステムは構築できる。

 

AIイメージ
AIイメージ

 

 欧米では、AIで需要予測をして、エネルギーは何が最適かを計算してマクロの調整をする動きになっている。これを使う際、すべての個社データが直接クラウド事業者に吸い上げられると、日本の製造業の「最後の宝」ともいうべき、オペレーションテクノロジーまでもが侵食されてしまう可能性がある。
そこでJEITAが事務局となり、「Green x Digitalコンソーシアム」を立ち上げた。国際連携のもとでユーザーも巻き込み、日本ならではのエッジでデータをとるルールメイキングをしようと動いている。JEITAの果たすべき使命として取り組んでいるところだ。

 

能美市の実験が試金石になる

 

—―今年はCEATECが25周年です。一番見て欲しい人は?

 デジタルドリブンの世界で世の中を変えたいと思っている学生を増やす必要がある。人材育成より、何が出来るかがが課題となる。
 東京科学大学は田中学長のイニシアティブの下、将来の医師たちである学生100名超が2018年からCEATECを訪れている。授業の一環としてCEATECでIoTやデジタルの最先端を体験しており、単に見学するだけではなく、グループディスカッションなども取り入れていると聞く。これからはあらゆる職種においてテクノロジーの活用が求められるのは言うまでもない。ぜひこのような取り組みを他の大学も真似して欲しい。

 

――ほかの新しい取り組みは?

 石川県能美市の「IoT高齢者見守りシステムサービス」にJEITAとして協力・連携している。エアコンなど家庭にある機器など派生するデジタル行動情報を世帯単位で取りまとめて高齢者の見守りから医療、介護サービスの連携に活用するものだ。
 地方の地縁、血縁システムがなくなりつつある中、新たな信認モデルの基盤となるのがデジタルだ。デジタルが新しい信認ネットワークを生み出し、そこから新しいビジネスが生まれてくる可能性もある。
 地方創生は、モノやカネを配り、企業誘致すれば済むというものではなく、地方にこそ優位性のある一次産業やそこに住まう人々を支える商業、医療、介護サービスに従事する人々が定着できるコミュニティの再生が不可欠だ。正しい行動をする人なら、新規でも衣食住を安心して確保できるコミュニティを、デジタル信認基盤をベースに創生することが肝要だ。これからはシステムへの投資を増やし、賢いお金の使い方(ワイズスペンディング)をしていくべきである。

 

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