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2025/10/01

インドネシアで高校生らが体験

「環境と経済」製紙会社の取り組み
インドネシアの植林現場や農業支援を見学取材



伝わる“脱炭素”への熱意
 筑波大学附属坂戸高校(筑坂高校)の生徒4人、愛媛大学附属高校(愛大附属)5人、筑波大学生10人が、インドネシアを訪問した。引率したのは、国際協力機構(JICA)で同国に携わった経験を持つ建元喜寿・筑坂高主幹教諭ら4人。筑坂高は文部科学省の「スーパー・グローバル・ハイスクール構想」指定校として過去にも同国を訪問しており、愛大附属は「愛媛県農業学校」をルーツに農業問題への関心が高い。


APP本社で全体説明
 7月28日、一行は高級ブランドショップが立ち並ぶジャカルタ市内のAPP本社を訪問し、サステナビリティ担当役員のエリム・スリタバ氏から全体説明を受けた(写真①)。同社の紙の生産量は年間2000万トン超で、管理する森林面積は東京都の約12倍にあたる260万ヘクタールに及ぶ。すでに半分近くが植林地となっており、「パルプ生産のために自然林を伐採する必要はなくなった」という。
 インドネシア政府は2060年までのカーボンニュートラル達成を掲げており、同社も温室効果ガス削減に積極的に協力。特に2013年頃からは製造工程の見直しなど環境保全に本格的に取り組み、応接室には数多くの表彰状が並んでいた。


[写真①:APP本社でサステナビリティに関するレクチャー]

[写真①:APP本社でサステナビリティに関するレクチャー]



 翌29日は、スマトラ島北部プカンバル市郊外の植林現場を訪問。APPは年間約3億本のユーカリやアカシアを植林しており、まず種苗の約4割を生産するグループ会社の研究施設を見学した。「クローン技術」と聞いて驚く生徒もいたが、実際には害虫に強い個体を選ぶ「株分け」で、生徒たちも作業を体験した。
 施設では「アカシアは亜酸化窒素(N2O)を大量に発生させ、環境に良くないとの研究があるがどう考えるか」と筑坂高の生徒から専門的な質問が出され、研究員が言葉を選ぶ場面もあった。


 その後、4~5年で成長するアカシアの植林現場(写真②)やインダ・キアット・ペラワン製紙工場を見学。コピー用紙を箱詰めする最終工程まで立ち入ることが許され、日本の企業では得難い体験となった。また、24時間態勢の森林火災監視センター(写真③)では、APPの管理林だけでなく国有林も監視対象としている点が紹介された。


[写真②:4~5年で伐採可能となるアカシア植林地]

[写真②:4~5年で伐採可能となるアカシア植林地]



[写真③:24時間体制で森林火災を監視する管制センター]

[写真③:24時間体制で森林火災を監視する管制センター]



地域住民への支援
 インドネシアの名目国内総生産(GDP、2025年見通し)は世界17位だが、貧富の差は大きい。同社は自然保護にとどまらず、焼き畑農業を禁じられた住民への地域支援にも力を入れている。30日には高付加価値野菜を生産する農場や養蜂場を視察。蜂蜜の収穫期には月25万円の売り上げになることもあり、新たな産業として期待されている。
 一方で、市場価値の高い空心菜が15円で取引されている現状を聞き、筑波大生の一人は「貧困問題への配慮が重要だが、本来は政府の役割ではないか」と問題提起した。
 最終日の31日は「森の再生プロジェクト」の一環として、成木まで20年を要するナツメの記念植樹(写真④)を行い、その後象保護センターを訪問。8月1日からはボゴールでの研修に移動した。


[写真④:ナツメを皆で記念植樹]

[写真④:ナツメを皆で記念植樹]



次世代に向けて
 今回印象的だったのは、十代の生徒を主な対象として丁寧に設計されたAPPのプログラムだ。世界自然保護基金(WWF)からの批判や、日本のコピー用紙市場の約26%を占めるなど日本を重要市場と位置付ける背景はあるものの、それ以上にアジア企業の環境対策への本気度が伝わってきた。
 愛大附属の横山泰士教諭は「昨年参加した生徒から留学や海外大学進学を希望する声が出ている。若いほど、このフィールドワークは心に刺さる」と語る。


 APPサステナビリティ部門のギャビー・マルティニ氏(写真①右)は「CO2削減は一つの解決例にすぎない。問題が起きたとき、どのフレームワークで考えるかが重要だ」と生徒たちに呼びかけた。


『脱炭素』で日本も支援を
 先進国が「環境」「脱炭素」を掲げても、途上国には経済的制約があり、民間企業だけでは限界がある。三菱総合研究所も「ASEANの脱炭素に向けたインドネシアの立ち位置」とするリポートで、ASEAN全体のCO2排出量約16億トンのうち36%を同国が占める一方、「人口増」「需要拡大」「豊富な自国石炭」が高いハードルになっていると指摘し、日本の積極的な支援を求めている。
 経済力低下により日本の存在感が薄れる中、ジャカルタ市内では中国自動車メーカーBYDのショールームが目立ち、展示会でも中国車ブースのにぎわいが日本車を上回っていたという。


 ジャカルタ新聞元編集長の長谷川周人氏は「インドネシアはまだ対日感情が悪くなっていない。内向きにならず、積極的にアジアと関わり続けてほしい」と訴えている。


(詳細は、「経済産業新報」本紙デジタル版で。)