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2023/10/02

半導体戦争~世界最重油テクノロジーを巡る国家間の攻防を読んで

 気鋭の歴史家、クリス・ミラーがまとめたこの本は、半導体の発明から70年間にわたるヒストリーを8人の人物を縦軸に編んだとても面白い物語にまとまっている。
 ショックレー半導体研究所から飛び出した8人の反逆者の中に、「ムーアの法則」で著名なゴードン・ムーア、ロバート・ノイスがフェアチャイルド(のちにインテル)を創設、のちの社長となるアンディ・グローブ、テキサスインスツルメントにはジャック・キルビー、TSMCの創設者、モーリス・チャンなど半導体産業の立役者達が綺羅星のように登場してくる。
 半導体産業が勃興したのは、半導体集積回路をNASAのアポロ計画やミニットマンミサイルに軍が主導して導入を図ったことから始まっている。最初はは軍事技術であったのだ。
ソ連は半導体集積回路を生産しようと、米国でスパイ活動をして回路情報をコピーしたが、真似するだけでは生産ができず、結局、軍のミサイル技術などでは米国に圧倒的に劣るようになってしまった。
 半導体の製造プロセス工程数は設計、前工程、後工程合わせて400~600工程ある。この組み立て工程に人件費もかかるため、アジアの安い労働力をを当てにした半導体工場が香港、台湾、マレーシアなどに作られ、半導体のサプライチェーンがグローバルに広がった。
 TSMCはその最たるモデルで、そのファブレス工場は世界のメモリーチップの11%、ロジックチップの37%を製造している。そこで使われている最先端の半導体製造に不可欠なオランダのEUV(極紫外線)リソグラフィーはインテル、サムスン、TSMCの3社が40億ドルの投資行って7㌨㍍プロセスを実現しようとしている。
 この装置は、世界中から最先端の構成部品を45万7329個を組み合わせて10年の歳月、数百億㌦の開発費をかけ、1台1億㌦以上する高価な機械となった。
 中国は自国で最先端の半導体を作ろうとしているが、この巨大がグローバル。サプライチェーンがない場合、EUVリソグラフィーの開発は難しい。これほど複雑な設計仕様を盗んだとしても、技術者の経験が足りず、1兆㌦をかけて開発しても10年以上かかり、その時点で時代遅れのEUVとなりかねない。
 仮に、中国が軍事侵攻してTSMCを手に入れたとしても、従業員や幹部は海外に逃れてしまい、稼働することは困難となる。
 2050年までに世界の半導体市場は7500億㌦に拡大すると見られている。2020年、TSMCの最先端工場Fab18では、1チップに118億個のトランジスタ搭載したiPhone用のプロセッサを開発した。
 著名な半導体設計者ジム・ケラー氏は、フィン型トランジスタを「全周ゲート型」というチューブ型トランジスタにして、縦型に積み上げることで集積密度はさらに8倍に増やせる、と予測している。半導体恐るべし。無限の可能性を秘めた「半導体」のイノベーションは今後も続くのだ。

 

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