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開発・提案力が日本の強み /SDGsへ真摯に取り組む ~日本香料工業会会長 桝村聡氏に聞く
あらゆるものに付加価値を添加する香料産業。100年企業が数多く存在する業界は、2024年どうなっていくのか?日本香料工業会の桝村聡会長(高砂香料工業代表取締役社長)に聞いた。
香料産業の今後の見通し
――2023年度の現状はいかがでしたか?
2023年の生産・出荷統計では、天然香料と合成香料は前期と比べ数量・金額ともに増加しました。特に、合成香料は、数量で181・8%・金額でも126・8%と大きく伸長しました。
合成香料は香料製品の原料になるものですが、香料需要が回復してきていることや、今まで発注を抑えていた分、仕入れを増やしていることなどが考えられます。
食品香料は、ノンアルコール飲料やプロテインなど需要が増加しているものもありますが、全体的には消費の盛り上がりに欠けることから、数量、金額とも横ばいの状態でした。
新商品による需要の上乗せ効果はそれほど大きくなく、既存のブランド商品の消費が根強い傾向にあるようです。
2023年度、国内では消費の回復や最終商品の値上げを受けて香料の販売金額は増加しました。しかし、原料価格、エネルギー価格の高騰等が大きく影響し、利益的には厳しい状況にあり、今後もこの傾向は続くと思われます。
海外への輸出に関しては、食品香料、香粧品香料ともに販売金額は伸びています。しかし、輸入に関しては、円安が続いていることもあり、原料となる合成香料の金額が減ってきております。これは、国内の合成香料の製造数量及び金額が大幅に伸びている状況から、国内での内製化が進んでいると考えられます。
――円安が急速に進んでいます。業界への影響をどう見ておられますか?価格転嫁は進んでおられます?
香料の輸入実績を見ると、天然香料と香粧品香料において輸入額が大幅に増加しています。これは原料価格の高騰をはじめ輸送コスト、エネルギーコスト、円安など複数の要因が重なったことによります。
2024年もこの傾向は続いており、香料の原料価格にも影響が出ています。
旅行や飲食店がコロナ禍前の状況に戻りつつある中で、最終商品メーカー各社は値上げの実施や新製品の積極的投入を行っており、その結果 飲料・スナック市場などでは生産量が増加しています。
香料業界においては、各社とも原材料価格等の高騰に対する取り組みとして価格転嫁などの対応をすすめていますが、まだ十分な結果を得るまでには至っていません。
――海外市場の開拓が課題でした。日本の香料産業の国際競争力と進出状況について、教えてください。
輸出を伸ばすための取り組みや、海外での生産という課題もありますが、欧米には日本よりも遥かに規模が大きく、総合力にも優れた企業が数多くあります。しかし、日本の近代の香料産業は、日本の伝統や文化を背景に、欧米の文化、産業と融合し、特有の研究や開発に裏付けられた形で発展してきていますので、その特異性は無論のこと、顧客企業様に対する香料設計などの提案力、きめ細かい対応など優れた面もたくさんあります。
お菓子一つとっても、いろいろな美味しいお菓子を作れる開発力があることは日本の強みです。従って、是非もっと多くの食品メーカーさんが世界で活躍して欲しいと思います。
アジア太平洋地域や中南米、アフリカなどの新興市場では、人口の増加や経済成長に伴い、新たな消費者層が生まれることで需要が増加する可能性が期待されますので、世界の香料企業が進出しています。
これらの地域は香料原料の供給地でもあることから、香料原料を輸入調達する一方通行ではなく、香料製品を安定供給できるような現地での体制づくりも進められています。
また一方で、この数年の情勢から、産地の作柄等にも影響されず安定して入手できる体制の重要性を改めて認識しましたので、輸入に頼らず日本の生産者とタイアップした内製化への取り組みも行なわれています。
――今後の香料産業の見通しをお願いします。
日本は、人口の減少とともに少子高齢化が進み市場はそれほど大きくならないと思います。しかし、産業界においては社会情勢や生活スタイルの変化に合わせ、いろいろな製品や新たな商品を開発する状況に変わりはありません。
また世界的な意識改革を求められている「持続可能な開発目標(SDGs)」は、限りある資源をいかに活用していくかを具体的な行動で求められており、真摯に取り組む必要があると考えています。世界の香料業界で取り組んでいる「サスティナブル憲章」に参加している日本の香料企業は、現在33社を数え、我々日本香料工業会の会員各社の意識も高くなってきていると感じています。
世界的に安定的な食料の調達が懸念されている今、新しい食品、食品の加工法の開発、材料となる未利用生物資源の探索など、香料産業の周辺においても研究開発は活発さを増しています。
我々の業界においてもそれらの課題に対してスピーディーに対応してゆくことが求められており、共に解決を目指しながら発展していかなければならないと強く感じています。
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