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2024/08/15

バブル期を超えた100兆円規模の国内投資 ~多田前事務次官に聞く 第2回

 前号では多田顧問より、万博の意義と経産省の「新機軸」政策に至った経緯などを解説してもらった。今回は政策の成果が出始めてきた今と今後を展望してもらった。

 

半導体は今後もキーデバイス

 

—あれだけ強かった半導体産業がダメになったのには忸怩たる思いがある、やはり、金融や企業の萎縮が大きかった?

 

半導体はDXでもGXでも極めて重要になってくるし、現在のサプライチェーンを考えると経済安全保障という観点からも重要な分野だ。実際に、使われる局面を考えても、IoTと言われるように全てのものがつながる世界において半導体の需要は増え続けるし、これから生成AI、データセンター、自動運転,電力制御など、これまで以上に高性能が求められるキーデバイスになってくる。特に、これからは「省電力化」がキーとなってきている

そのため、経済産業政策の新機軸の具体的な展開として、大胆な踏み込みをしているところだ。半導体チップの生産には莫大な研究開発資と設備投資が必要であるが、今回は研究開発だけでなく、個別企業の生産工程にまで補助金を出す、といった施策を展開している。結果として、熊本や北海道では関連投資が続くほか、地価や人件費も上がり大変活況を呈している。失われた30年では経験してこなかったような動きが一気に出てきていること、特に、昨年度の民間設備投資がバブル期を超える100兆円規模にまで膨らんできていることは心強い。

ここに所得の上昇とイノベーションが上手く循環していってくれれば、「成長と分配の好循環」が実現されることになる。そのためにも、投資なり賃上げなりも、一時的でなく、しっかりと定着し、継続していくことがとても重要だ。

生成AIとなると、高性能半導体がたくさん使われるが、電力を相当使うようになる。となると、微細化だけでなく省電力がカギになる。

ここは日本が得意な技術であり、世界が求めている市場に乗り出していく時期だと思っている。いつまでも他国から供給される半導体だけに頼っていては経済安全保障の面から言っても厳しいし、DXの成否にも関係してくる。

 

半導体基本戦略

 

―熊本や北海道は盛り上がっていますね

 

地価も上昇し、人件費も上がってきて、地方自治体も固定資産税が入り、インフラ整備(住宅や道路など)が必要となり、再投資の循環が回り始めている。

昔は工業再配置などの政策があったが、地方にはやはり良質な雇用を生み出す場が必要なのではないかと思える。現在、半導体が起点となって100兆円規模の、バブル期を超える国内投資が盛り上がっている。これを一過性のものではなく、設備投資、賃上げ、所得の上昇、そしてイノベーションの好循環が継続していて欲しいと願っている。

この投資の盛り上がりを2024年頃の時期だけに終わらせてほしくない。この100兆円の投資規模が継続していくことを願っている。

 

半導体地方展開

地域に魅力ある雇用の場を

 

―もう1つ、昔、工業再配置がありました。日本も産業を再配置して頂きたい。鉄鋼の街であった米国のピッツバーグは医療産業都市にかわっています

 

地方に魅力のある雇用の場は必要だ。データでも、東京の一極集中でみると流入人口では男性より女性の方が多い。大学で東京に出てきた女性が、地方に戻り働けるような企業が少ない。

この男女のアンバランスが少子化の1つの遠因になっている。地方は物価も安く、子育てしやすい環境にある。やはり、地方に女性が働ける魅力ある職場、雇用の場があれば経済もよくなる。 その意味で、少子高齢化の1つの処方箋となる可能性がある。

 

―現在、円安が進み1時は1ドル=160円を超えるところまできてしまった。この水準で、日本の産業は大丈夫ですか?

 

以前、一時的に政府の一員にいたものとして、為替レートの適正水準について、言及すべきものではないのだが、昔から「為替レートは国のファンダメンタルズを表す指標であり、国の力を表している」と言われてきた。

では、それ程日本は弱いのか?というと過度な円安が良いという議論は間違いだ。わが国は、努力は惜しまないとしても、エネルギーと食料は100%自給できない。

エネルギーや食糧を輸入する、となれば、購買する時にはやはり、貨幣は強い方が良い。その意味では今はあまりよろしくない時期にある。かつては、79円という円高に時期があり、企業が為替を中立化するため、生産拠点を海外に移転して「空洞化」と言われた。

ところが円安になったので、輸出が伸びたかというと、国内生産拠点が減っているため、それほど貿易の黒字にはなっていない。円が100円の時1・5倍も安くなったため、外国人が「日本は安くて、美味しい」と月300万人も観光客が集まっている。外国人が集まることは喜ばしいが、円安が原因というのは喜んではいられない。

 

―今後の展望ですが、日本はどうしたら再び強くなっていけるのでしょう

 

まず1つは、誰かが強くしてくれるという発想から抜け出さなければいけない。誰かが出て来てとかではなく、一人一人が、いま社会に貢献できていないことは何か?を考え、何かを身につけ、出来ていなかったことにチャレンジする。

リスキリングでもよいし、誰も踏み込めていない面にチャレンジする。経済産業政策の「新機軸」のように、誰か任せでなく、一人一人が一歩踏み出す。これが大事だと思っている。

日本人は出来ないわけではない。大リーグの大谷祥平選手の活躍は凄いし、背の低いバスケットやサッカーも世界で伍していっている。日本のビジネスマンも世界に伍していける人が必ず、出てくることを期待している。

 

 

<多田 明弘(ただ あきひろ)>1986(昭和61)年東大法卒、通商産業省(当時)入省。米国留学等を経て、2004年からJETROニューヨークセンター次長。大臣秘書官(二階俊博大臣)、中小企業庁金融課長、商務情報政策局情報政策課長、大臣官房総務課長等を経て、14年に資源エネルギー庁電力・ガス事業部長、電力システム改革に取り組む。その後、同庁次長、製造産業局長を経て、18年には政策統括官(経済財政運営担当)として内閣府に出向。経済財政諮問会議を担当し、骨太方針の作成などを担う。20年に経済産業省に戻り大臣官房長、21年から経済産業事務次官。23年7月に退官。現在は、経済産業省顧問として、大阪・関西万博を担当するほか、複数の民間企業の顧問等も務める。

 

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