政策と産業の最新動向を伝え、解説する“クオリティペイパー”


経済産業省経済産業政策局 産業再生課長 井上博雄氏

経済産業省経済産業政策局 産業再生課長 井上博雄氏

経産省として、約5年ぶりとなる「新産業構造ビジョン」の中間整理が打ち出された。第4次産業革命に突入している今、日本は大きな分かれ目にあるとするビジョンの中身を井上課長に解説してもらった。

この「新産業構造ビジョン」の策定は、昨年の閣議決定を受け経産省が取り組んできているが、関係省庁の担当課にも広くオブザーバーで参加していただいている。経産省の範囲にとどまらない幅広い議論をしようと、昨年8月に産業構造審議会に新たな部会を立ち上げ審議を始め、今年4月に中間整理を発表した。
技術革新が予想を超えるスピードで進み、先行きが一層不透明な時代になっている中、世界に目を凝らし、既に見えている課題はスピード勝負で解決していかねばならない。こうした考えの下、6月2日に閣議決定された「日本再興戦略2016」の大きな柱として、ビジョンに示された「第4次産業革命」の実現~IoT・ビッグデータ・ロボット・人工知能~が盛り込まれた。
「第4次産業革命」の影響を受ける範囲は極めて幅広く、いわゆるIT分野のみならず、経済社会全体を変えていく必要がある。このため、総合的な司令塔として政府全体で推進する「官民会議」の設置が決まった。ビジョンを検討してきた産業構造審議会(新産業構造部会)も、夏目処に再開し審議を更に深め、「官民会議」での矢継ぎ早の改革実現に貢献していければと考えている。
「新産業構造ビジョン」(中間整理)には、海外の一線級のベンチャー経営者や大学教授の方々を始め、様々な反響をいただいている。こうした意見交換の中で、今後に向けて更に深めていけないかと指摘を受けた論点が大きく3つある。1つは、日本の未来に向けた重点分野を見定めることはできないか。日本の強みを活かせる有望分野を見える化し、これに向けた動きをプライオリティを付けて社会全体で加速できないかという問題意識である。2つ目は、その分野別の戦略を、紙の上でなく、どのように現実世界で、スピーディーに実現するか。長期的な将来像を共有し、具体的な目標を期限を定めて設定した上で、様々な改革を時間軸を切って進めていくことが必要だろう。3つ目は、更に加速する必要がある横断的課題は何か。新たな技術革新と「リアルデータ」を活かしたスタートアップが次々に産まれてくるような国にするために、大学・研究拠点のあり方、内外の優秀な人材の行き来のあり方、雇用・労働システムのあり方、幅広い規制制度改革の進め方などの重要性が多く指摘されたところである。

――新産業構造ビジョンのポイントは?
ビジョンのメインメッセージは、日本は今、「分かれ目」にあるという点。このまま放置すると、海外のGAFA(グーグル、アップル、フェースブック、アマゾン)と呼ばれるプラットフォーマーらが付加価値を全て持っていってしまい、わが国産業はトヨタであっても下請け化し、ジリ貧となってしまう懸念がある。
となると、日本のとても大事な中間層が崩壊し、下振れの大きい2極化社会になってしまうと懸念される。今後はソフトも含めた破壊的イノベーションが大事だが、ハード中心の漸進的なイノベーションに止まり、世界の流れから取り残されてしまうという大きな危機感がある。
だからこそ、「痛みを伴う転換」をとるか「安定したジリ貧」を取るか、今まさに「分かれ目」にあり、勝者が全取り(ウイナーズ・テイクス・オール)してしまう時代にあって、スピード勝負で経済社会システム全体を思い切って転換していく必要がある。
具体的な変革の方向性は、1つはAI(人工知能)等の技術革新やデータを活かし、グローバルな需要を発掘していける経済社会にしていくこと。世界が直面している様々な社会的課題をブレークスルーできる技術が生まれつつあり、世界に貢献しつつ新たなフロンティア市場を獲得していく必要がある。
もう1つは、新時代の付加価値の源泉である「データ」を、戦略的に収集し新たなサービスに結び付けていく必要があり、企業や系列の壁を越えたデータのプラットフォームを形成し、グローバルに展開していくこと。
社会経済全体では、柔軟な労働市場、外国人の活用はどうしても必要になってくる。さらに産業の新陳代謝をもっと進めていくべきであろう。伸びるべき産業はどんどん伸ばし、ゾンビ企業の延命には手を貸さない。大企業には捨てるべき事業があれば価値のあるうちに撤退してもらい、それを原資に革新的な技術を育むベンチャー企業を取り込んでいくなど、イノベーションを加速することが不可欠だ。教育については、データを活用して課題解決に挑戦できる人材を増やしていかなければならない。
そして、日本が再び、国際的なネットワークの核になっていく未来を目指す必要がある。先日、トヨタが米国にAI等に取り組む研究所(Toyota Research Institute)を作ったが、その所長のギル・ブラット氏らと意見交換してきた。やはり、第4次産業革命をリードする最先端の技術情報がシリコンバレー等には溢れていて、その中の高度な人的ネットワークにつながると、自然発生的にイノベーションが育まれ、現実世界を変えようとする起業家の肉厚な挑戦につながっていく。中国、インド、欧州もこうしたネットワークに入り込みながら進んでいるのに、日本がそこに食い込めていないのが悩ましい。
残された期間は短いが、日本にまだ強みのあるうちに一気に転換できれば、労働力減少を補う生産性の向上や賃金の上昇も実現できる。そうすると、中小企業や地域経済にも果実が波及できる。
ただし、産業は再編され、倒産する企業も出るので雇用は流動化していく。そういう痛みはあっても、「転換」の方に舵を切らないと、「安定したジリ貧」になってしまう。審議会ではこの部分をずっと議論してきており、ここが一つのメインメッセージだ。

 <いのうえ ひろお> 東京都出身、東大法卒、平成6年入省。3年間従事した福島復興をライフワークとし、今でも原発周辺地域にできるだけ通って貢献したいと言う。

(次号につづく)

今、何が起こっているのか?① ~技術のブレークスルー~

今、何が起こっているのか?① ~技術のブレークスルー~

 

第4次産業革命の2つのシナリオ~日本は今、「分かれ目」~

第4次産業革命の2つのシナリオ~日本は今、「分かれ目」~

 

各目GDP600兆円に向けた成長戦略(「日本再興戦略2016」の概要)【案】

各目GDP600兆円に向けた成長戦略(「日本再興戦略2016」の概要)【案】

 

データによる新たな社会の創造を目指す企業①

データによる新たな社会の創造を目指す企業①

 

試算結果の概要(2030年までの姿)

試算結果の概要(2030年までの姿)

 

(参考)資本力が鍵となるテクノロジー系ベンチャーのM&A投資

(参考)資本力が鍵となるテクノロジー系ベンチャーのM&A投資

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong> <img localsrc="" alt="">