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ミュージアムの混雑と鑑賞の価値

木内里美(株式会社オラン代表取締役)

都市部と地方の違い
頓に高い再評価を受けている奇想の画家・伊藤若冲の作品展が日本各地で開催されている。最近で言えば、5月には生誕300年記念の展示会が東京美術館であった。この時の混雑は凄まじいものだったようだ。ようだというのはSNSでその混雑状況を知り、観に行くことを断念したからだ。連日チケット購入までに20分から60分、入室までに200分から300分との情報が流れていた。3時間、4時間待つことにも辛抱がいるが、入室してもろくに鑑賞できる環境ではないことが明らかである。それは2014年に上野の森美術館で開催された葛飾北斎展の時に経験していた。会期中の入館者が10万人を超えたそうだ。入室まで1時間程度だったと思うが、それでも館内は鑑賞するという環境ではなかったので、早々に退室した。
ネット社会による情報の拡散効果は博物展や美術展の前評判を高め、集客効果は絶大だ。加えて高齢化社会を背景にシルバーデーなど65歳以上は無料入場できるサービスデーが設定されたりするので、高齢者も殺到する。施設側が売上至上主義で詰め込めるだけ入場させるため、十分な開催期間を設けず時間あたりの入場者数を制限したりしないことからまともに鑑賞する環境は与えられない。以来人気の博物展や絵画展などは地方開催に出かけるようにしている。
地方に行くと状況は様変わりする。2010年静岡美術館で開催された伊藤若冲アナザーワールド展はゆっくり1点1点を鑑賞することができた。2014年浜松の秋野不矩美術館、2015年兵庫県立美術館で共に開催された堀文子展も作品に浸ることができた。都市部と地方の差は人口集積度の違い以上のものがある。

鑑賞に求める価値
そもそも大混雑の中で鑑賞する価値があるのだろうか?遠くから垣間見るだけで意味があるのだろうか?精緻な筆さばきや微細な彫塑の表現に触れてこそ感動も高まるものだ。
日本では混雑すると立ち止まらないで歩きながら鑑賞して下さいと促される。私語は禁止だから不気味な雰囲気だ。スケッチや写真撮影も禁止。とても鑑賞に浸る気分にはならない。海外では例外を除いて全て許されることが多い。インドネシアのバリには優れた作品を展示する美術館があちこちにあって心から堪能できる。先日訪問したハンガリーのブダペストでは毎月25日にナイトミュージアムというイベントがあって、日本円で600円程度を支払うと夜の12時まで国立美術館や民族博物館や歴史博物館など市内の全ての博物館や美術館に入館できる。たまたまタイミングよく鑑賞することができた。戦争歴史を展示した博物館では戦車以外の撮影は禁止されていたが、その他の美術館や博物館は撮影が許されている。老若男女の居住者や観光客がそれぞれに楽しんでいた。文化の違いと鑑賞することの価値を改めて考えさせられた。

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