政策と産業の最新動向を伝え、解説する“クオリティペイパー”


辻井 潤一氏

辻井 潤一氏

AI研究最前線
国立研究開発法人産業技術総合研究所

第4次産業革命が進む中、「第2幕のリアルデータを活用するAI社会では日本が優位である」という産総研の辻井所長に今後の展望を聞いた。

人工知能研究センター長(工学博士) 辻井 潤一氏に聞く

元々、AI(人工知能)は第5世代コンピュータのころから、人間の知識とか論理とかをコンピュータに書き込んでAIを作ろうと試みた。しかし、ナレッジボトルネックと言われるように、実際に動かすには、大量の知識を入れ込まなければなかったが、知識の量が膨大なために書き込めなかった。

人間の場合は、いろいろな知識をバラバラに、矛盾して持っていても知的に動けるのが人間の特徴だった。コンピュータは整合された、きちんとした知識データでなければ役に立たなかった。そして、量も膨大に必要だった。

その後、インターネットが出てきて、グーグル、アマゾン、アップル、フェースブックなどのIT大企業が出現してきた。例えば、グーグルなどは世界中のWebページを自分たちのサーバーに取り込み、インデックスしてあげて、サービスをする。自分たちの中にデータが大量に蓄えられるようになってきた。

アマゾンでは、どのような人が何の買い物をし、次にどのような行動をするか、商取引のデータが溜まる。フェースブックには、こういう人はこんな人たちと友達になっているといったデータが彼らのシステムに溜まってくる。

それらをうまく使うと、この本の書評を見た人にはこう言う宣伝をすると良い。あるキーワードを入力しただけで人の興味がわかるため、効果的に宣伝ができるようになった。

つまり、知識の前の膨大なデータがコンピュータの中に入ってきて、その統計的性質をうまく見つけるれば、ある種の「知識」が自動的に作れるようになった。

例えば「この本を買う人は次にこのような本を買う可能性が高い」といったある種の知識が蓄えられる。これを進めていくと、人の興味や行動パターンがよくわかるようになる。これを「機械学習」と言うのです。

これは5世代でやっていた論理の知識ではなく、統計の知識であり、確率とか統計による知識がうまく引き出せる。データを与えてあげれば、コンピュータの中に知識的なものが作れるようになってきた。

また、ある意味、いろいろな技術が揃ってきたのも大きい。大きなデータを集めてくるIT企業のモデルが出て、人にサービスをし、さらに良くしていくためには、機械学習で賢くしていく必要がある。そしてさらにコンピュータが賢くなっていく。そうした機械学習に対する期待が高まり、シーズが大きくなっていったと同時に研究も進んできた。また、一般にはコンピュータの処理スピードが早くなり膨大な記憶データも蓄えられようになった。

ニーズがあり、欲求があり、機械学習とか大きなコンピュータを使うとかの技術的シーズが成熟してきたため、AIブームが再び起きてきたと見ている。

その典型が今流行りの深層学習(ディープラーニング)であり、機械学習の1つです。データをたくさん取る際、どういう特徴でデータを集めれば良いか、どういう知識を作ればよいかがコンピュータ方でつかめるようになっていきた。

深層学習で良かったのは、GPU(グラフィック・プロセッシング・ユニット)という画像処理技術の発達だ。これは数学で言う行列計算を処理するのに最適なアーキテクチャであったため、深層学習の技術を移しこむことがうまく行き、一気に100倍くらい処理スピードが早くなった。

深層学習で大きなデータを処理するのには以前は1週間かかっていたものが、1日または数時間で終わるとか、Webの膨大なデータ処理が1日で終わるとか、機械学習がかなり進歩した。

ですからナレッジボトルネックを破る状態にきて、第5世代の頃のシーズ先行ではなく、現実社会にAIが役に立つようになってきたのが今のAIブームです。

我々は今、グーグル、アマゾンタイプのAIはそろそろ終わりだしたと見ている。インターネットのデータをためてAIで処理するところから、今、彼らは自動運転やヘルスケアなどの現実の分野に乗り出してきている。

グーグルがアルファベットという持ち株会社を持ったのも業態を多様化していくためだ。インターネット以外のところからデータを取り、現実社会の中にAIを採り入れる時代になった。現実世界のデータを取りながら、AIの新しい技術が必要になり、新たな需要を生み出すサイクルに入ったと我々は見ている。

そこで何が起きるのか?強いパートナーとのAI連携が欠かせない。自動運転ならば、自動車メーカーと組めば、強いAI産業が生まれ、新しいAI技術が出てくるような時代になる。IoTやCPSというのもAIとつながれば、きっと新しい、効果的な社会が生み出されてくるはずだ。その意味で行くと、日本の産業はAIにとって良いポジションにいると考えている。

そこで必要な3つの柱がある。1つはAIフォー・ヒューマンライフ。快適な人間生活を送るためのAIがある。日本が得意の分野であり、例えばコンビニは地域特性やお客に親切なサービスを提供してくれている。これからAIはある特定の環境の、特定な人に合ったサービスを提供してくれるようになる。

ヘルスケアでは、病気をした人の病歴や職業などから最適な治療法を見つけるAIサービスが出てくるだろう。介護も旅行も同じ、一人ひとりに木目の細かいAIサービスが出て、快適な生活を送れるようになる。それら都市がIoTと連動し、スマートシティになっていくのだろう。そこには必ず、日本風AIが出てくるはずだ。

2つめは、AIフォー・マニュファクチャリング。生産やエンジニアのためのAI。例えば日本の自動車会社はカンバン方式を使い、生産ラインから物流に至るまでストックを少なく、系列の子会社を機能させるシステムを作り上げた。ここにAIを入れるわけだ。独の提唱するインダストリアル4.0ではなく、日本風のAIを入れて行き、より強くしていくことが必要だ。海外の受け売りではなく、日本のAIマニュファクチャリングが必要だ。

例えば、高い技術力のある中小の技術をAIに覚えこませ、ロボットに移していき、より生産を高度化させていけるのは日本だけだ。

3つめはAIフォー・サイエンス。日本が先進国で伍していけるのはあらゆる科学技術分野でトップレベルの人たちがいるためだ。生命工学や医療、物性、エコロジーなどあらゆる分野でトップレベルの知識、論文、データが蓄えられてきている。そして、これからは一人の研究者からビッグデータを使ったデータオリエンテッド・サイエンスに大きく変貌しようとしてきている。ここへの投資が遅れると、新しい科学技術に取り残される恐れがある。

日本には良い研究者やグループ、大学がたくさんある良い土壌がある。これらの科学技術の研究者とAIをつなげていくのが我々AIセンターの役割である。AIで科学技術を強くし、産業を強くしていく。そこにAIニーズを顕在化させ、さらにAIを発展させていくべきであろう。

AIの技術者を増やしていくには、データサイエンスが基本だが、元々の車や医療などの優秀なソフトウェア・エンジニアが我々のAIセンターに来て、プロジェクトを組み、現場でトレーニングを積めば、半分AI技術が身についてくる。そうして基本的AIを習得して行く方が早いだろう。

これからAIは第1次産業革命がもたらした影響と同じくらいのインパクトで社会構造を大きく変えていく可能性が高い。一方、AIが人の仕事を奪ったり、反乱を起こす恐れを抱いて、心配する人がいるが、今AIが出来ることは人の出来ることの1部を、人間より賢くできるようにプログラミングしてできただけ。全体で人間を超えるところまでにはまだまだ至っていない。

医療などの分野では医者をサポートし、より良い診断や治療の手助けとなるAIが、あらゆる分野で出てきて、より快適な社会生活を送るようになると考えていくのが健全だ。       (文責編集部)

<つじい じゅんいち> 1973年京大大学院修士課程修了、同助手、同助教授。88年マンチェスター科学技術大学(UMIST)教授、95年東大理学部教授、同大学院情報理工学系研究科教授、2011年マイクロソフト研究所アジア首席研究員、2015年現在に至る。2016年マンチェスター大学教授(兼任)。

計算言語学会(ACL)、国際機械翻訳学会(IAMT)、アジア言語処理学会(AFNLP)、言語処理学会などの会長を歴任。2015年

より国際計算言語学委員会(ICCL)会長。

 

20160815_02

 

わが国の人工知能研究開発が3省連携による体制として整ってきた

20160815_03