政策と産業の最新動向を伝え、解説する“クオリティペイパー”


☆連載1回目
「日本のものづくりにソフトウェアの視点を」

わが国のものづくりの今後を論ずる時に、組込みソフトウェアの重要性があまり理解されていない。高精度な部品の機能をソフトウェアで代替してきている時代の視点が欠けている。この様な問題意識から、業界の専門家に集まってもらい議論した内容を連載で紹介する。

覆面座談会「日本のものづくりと組込みソフトウェアの将来は?」
(出席者)*司会本紙主幹
     A:大学で競争戦略とものづくりを研究する研究者
     B:元大手電機メーカー組込み開発リーダー
     C:ソフトウェア商社システム研究部長

やがて車もロボットも勝てなくなる

A 日本のものづくり白書でも、組込みソフトウェアの重要性が紹介されてはいるが、記述は極めて少ない。特に、ハードウェアのものづくりや製造プロセスと同じ視点で組み込みソフトが捉えられており、基本的に間違っている。ソフトウェアの本質である、ハードウエアの価値を高める、新たな付加価値を生み出す、競争ルールを変える、仕掛けを作る、ビジネスモデルを生み出す、産業構造を変える、などの視点が全く欠けてしまっている。
 欧米は80年代から特に、ソフトウェアに注力し、大躍進を遂げた。特に組込みソフトウェアに対する著作権や特許権を認め、結果的に知的財産権を武器に強力にソフトウェア産業を育てていった。
 現在の産業を欧米と比べると、日本が得意とする製品は大体がハードウェアリッチである。例えば材料とか超精密部品が強い。しかしソフトウェアリッチな分野は欧米にすべて負けている。彼らはハードウェアを初めから捨ててグローバル調達し、製品としてインテグレートする時にソフトウェアを使う。ソフトウエア側で製品価値を形成するので、ハードは韓国製でも中国製でも構わないため、日本は価格競争を強いられるはめに陥った。
 ハードウェアリッチな部品や材料の市場規模は、せいぜい数千億円から1兆円程度、ソフトウェアリッチの市場規模は数10兆円から100兆円規模となる。だからハードだけを追求しても大きな付加価値が日本に蓄積されず、雇用にも成長にもつながらないのだ。こういう問題をどうして解決するか?
 これから、例えば自動車などがネットにつながると言われるが、つながれば競争すべき領域ば別のレイヤーへシフトする。これを理解せず、これまで同じ領域だけで競争すれば、勝てなくなるだろう。
 例えば今、ロボット市場には産業用以外のロボットはまだないが、ネットにつながるロボットや介護ロボットなどが普及するときに競争領域が変わる。これを考えずにやると、日本が非常に強かったはずのロボット産業でも勝てなくなる。これらの背後で競争領域をシフトさせるのが、すべて組み込みソフトの作用である。
 自動車にもマイコンチップが100個くらい入っているがが、これらがネットワークとつながるようになると、いままでと同じ領域だけで競争をしても勝てない。この事態の到来が日本の自動車産業にどんな影響をもたらすかを、事前に考えて手を打たなければならない。
 スマートエネルギーについても、つながるのは良いが、デバイスレベルでほとんど勝てなくなるのではないか。しかし、つながるときに競争領域が変わることの議論を聞いたことがない。

産業構造を変革する組込みソフト
制御設計できる人材が極めて少ないのは問題だ
組込みも結局人材派遣業であった

B 日本はいつも技術では勝てても、ビジネスでは負け続けてきた。そこらが難しい。
A 産業構造審議会でもそのような議論をしていない。総務省でも将来のネットワークの話をするが、クアルコムが如何に考えていて、どう出るかは議論の対象にならない。クアルコムの仕掛けを知らない点が1つと、そのような議論が出てきてもらっては困るのが本音ではないか。
B 結局は、ネットワークの話をしても、クアルコムのチップが安く手に入らないと装置が出来ない時代なのである。
A 日本の最大手の携帯キャリアが数百万円で作っていた機能がクアルコムチップでは数千円で出来てしまう。その時にドコモや総務省が困る想定外の問題なのだが考えていない。競争領域を変えていく仕掛けの裏にあるのが組込みソフトウェアなのである。
B 日本に半導体メーカーがなくなりつつあるのもヤバイ話だ。
A 日本のメーカーの人は組み込みソフトを、価値を生み出すというより、人件費と考えていた面が強い。したがってハードウエアのものづくりと同じく、ソフトウエア開発やプログラミングなどに焦点を当てた議論が多い。これでは、新たな価値を生み出す技術としての組み込みソフトを、誰も理解できるはずがない。
B それは製造業の幹部の人の若い頃にマイコンが出てきた。ある意味、ハードの片手間で作るのがソフトという環境で過ごしていた、その時の記憶しかない。
A アメリカでもそれは同じである。しかし、ソフトウェアがどういう意味を持つかについて、産業構造の歴史的な転換という視点で体系化したのが大きい。
B 欧米は会社自体が新陳代謝して変わるが、日本は工場を抱えた製造業が数十年続いているので、その辺も影響している。人もあまり変わりませんし・・。
A 誰かがソフトウェアを、グローバルな産業構造や競争ルールを変えという視点、および競争政策やビジネスモデルなどの視点から体系化し、これを教育していかないといけない。ソフトウエアは開発費が総コストであって工場の組み立てコストがゼロになる。ハードウエアでは量産工場がコストを決める。この視点に立てば、経済の基本理論が変わっていくだけでなく、欧米がソフトウエア側を握り、アジアへハードウエアを任せる意味が理解されるのではないか。
B 昔、T社でハードディスクドライブを研究し、容量を10倍にする研究をした。ハードを10倍にすると円盤の軸受けの加工精度をさらに10倍上げて振動を少なくするか、ソフトウェアの制御を向上させて、軸受けはそのままにトラッキングの精度をあげる選択に迫られた。
 開発コストや製造コストを考えると、ソフトウェアを増やし、高性能のマイコンを入れれば10倍になるという対応をした。ソフトウェアの技術者がいれば、性能が10倍になった例をよく引用した。・・・>申し訳ありませんが、この続きは本誌でご覧ください。

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