政策と産業の最新動向を伝え、解説する“クオリティペイパー”


☆連載3回目
「日本のものづくりにソフトウェアの視点を」

わが国のものづくりの今後を論ずる時に、組込みソフトウェアの重要性があまり理解されていない。高精度な部品の機能をソフトウェアで代替してきている時代の視点が欠けている。この様な問題意識から、業界の専門家に集まってもらい議論した内容を連載で紹介する。

覆面座談会「日本のものづくりと組込みソフトウェアの将来は?」
(出席者)*司会本紙主幹
     A:大学で競争戦略とものづくりを研究する研究者
     B:元大手電機メーカー組込み開発リーダー
     C:ソフトウェア商社システム研究部長

モデルベースが主流に技術進歩が早いソフト
(前号からつづき)
T  加えて、デンマークは製造業がないから、研究機関や開発センターに勤める。そして、労働集約的な人口が少ないので、国の研究開発費の半分がロボットの研究をしている。清掃や警備をする作業員がいないから。
 後の半分は高齢化が進むので、医療・福祉の開発につぎ込んでいる。
つい最近の話では、デンマークは国のエネルギーのすべてをドイツやフランスに頼っていたが、政府は10年以内にすべてクリーンエネルギーに切り替える宣言をした。何と6年の間にすべて切り替え、いまや30%のエネルギーを輸出している国に変えてしまった。
 100%輸入電力エネルギーに頼っていた国が、6年で完全自給した上で30%輸出国に変わったすごい国です。風力や潮力などを活用している。
 しかも、デンマークは特殊な金持ち国でもある。北海油田の権利もあり、レアメタルの宝庫のグリーンランドも持っている。昔は軍事国家であり、その時の王様の前がブルートゥースという無線の技術の名前だ。 
――車のT社が車のエンジン制御の組込みシステムがバラバラだったのを低コスト化のため、共通化に踏み切るようだ
T それはT社だけの話だ。N社、H社はすでにモデルベースとなり、ボタンを押せばソフトウェアが出来上がるようになっている。T社はソフトウェア開発できるグループ会社があり、困っていなかった。N社、H社はそれがなく、複雑になってきたため、開発が難しくなり、モデルベースに頼らざるを得なくなったのだ。
 3-4年前にT社も「いよいよ量産車にモデルベースで作ったコード生成のソフトウェアを載せる」と言い出した。松竹梅の3タイプに分けるようだ。結局、それらエンジン制御システムを握っているのは日本のD社とドイツのB社なのだ。
O 途上国の量産車はすべてB社が握ってしまい、D社ではもはや勝てないではないか。
T T社とB社の合弁会社がD社ですから当然です。
O B社はハードのエンジンやブレーキをすべて売り払い、ソフトウェアメーカーとして舵を切っている。ソフトウエアが人間が作った論理体系によって創られるので、自由自在に結合させることができて技術進歩が非常に早い。一方、ハードウエアとしてのモノづくりは、自然法則や機会特性を上手に使わねばならないので技術進化が非常に遅い。多くのモノはソフトウエアが無いと動かない。ソフトウェアはモノを動かすことができるし、それを使ってビジネスモデルができる。そして、市場を支配できるマネジメント力が生まれる。それを出来る人材がまったくいないのが日本の最大の問題だ。
 制御設計も出来ずに、組込みソフトウェアを作っているのは論外だが、モデルべースが出て来て、仕方がないかもしれない。もっと怖いのは市場をコントロールする仕組みづくりだ。これが実に見えない世界なのだ。
 B社がインドでなぜ強いのか?ほとんどの人はわかっていない。D社がやっと気づいた程度だ。他の部品メーカーのトップはほとんどが機械屋さんでソフトウェアについては全くわかっていない。
 日本のカーメーカーの役員にエレクトロニクスの担当の人はほとんどいない。ましてソフトウェアをわかる人はほとんどいない。しかし、B社には相当数のソフトウェア出身者が役員でいる。この差が大きい。
 教育やソフトウェア人材育成の話になってくるが、ボトムアップでいくら上に伝えてもトップにソフトウェアをわかる人がいなければとても方向転換は難しい。
T 日本のカーメーカーの役員にはエレクトロニクスをわかる人は若干いるが、ソフトウェアについては全くわかる人がいない。しかし、JasPar(車載電子制御システムのソフトウェア標準化団体)を作ったおかげで、AUTOSAR(欧州主体の車載ソフトウェア標準化団体)の次のバージョンにやっと日本の仕様が入れてもらえることになった。
O それはものづくりのソフトウェアで、仕組みづくりではない。AUTOSARはマクロな土俵しか作らない。JasParの人は「これではものづくりが出来ない」として詳細を埋めているのだが、AUTOSARは枠組みだけを作り、敢えて細部を標準化しないという戦略にJasParは気がついていない。この状態で枠組みの標準化を主導すれば、キャッチアップする企業に対してAUTOSARが圧倒的な影響力を持つことができる。つまり最初からビジネスモデルの仕組みに取り込まれていく戦略をJasParの誰もわかっていない。JasParは技術者の視点から標準化するモノづくり標準であった。
――それでは日本どうしてソフトウェアに足がかりを得て進めていくのか?
O ソフトウェアを語る時、これがビジネスモデルや競争力にどれだけ影響があるのかという仕組み作りの話と、組込みソフトの中でPDCAを回す話は区別しないといけない。
 仕組みづくりとしてのソフトウェアと、モノづくりとしてのソフトウエア、すなわち品質やものをつくるためのソフトウェア、あるいはハードウェアはいい加減でもソフトウェアのフィードバック制御で結果的に低コストにする機能としてのソフトウェアの利用、とを峻別して理解しなければならない。
 この峻別をしながら、ソフトウェアの方向性をきちんと説明すべきだ。しかし電機メーカや機械メーカーのトップとこれを話してもわかる人はほとんどいない。ソフトウエアを必要悪のコストと捉えるのが大部分であってすぐオフショアリング向かい。一方、グローバル市場で競争優位を築く事業戦略としてのソフトウエアを語る人がいない。
T 一応、経産省もものづくりを司る20分野のサポーティングインダストリーの第1番目に組込みソフトウェアを取り上げている。ものづくり高度化法の第1に取り上げたが、その後はどうかは微妙だ。
F 携帯のA社がiPhoneやiTunesをやり始めた時、「囲い込み」をしているとわかったが、やり切った。しかし、日本の家電のN社がスマート家電を出し、「携帯で動かします」という意図は何なのですか?よく意味がわからない。
T あれはファンヒーターへの反省が第1の目的であったそうだ。スイッチが入る、入らないは二の次で、とにかく製品をオンラインでつなぎ、どこで稼動しているかを把握ことが目的だったそうだ。顧客を探し出し、故障はソフトウェアで対応できれば、安心・安全な家電となる。
 ファンヒーター1台1台を探し出すのは本当に困難で、『二度とあのような作業はしたくない』というのが本音だったようだ。
 オンラインでやるところをスマホでつなげれば、顧客の使い方や想定外の使い方も把握できる。以前は、「こう使って下さい」とマニュアルに書いたが、機能の99%は使われず、全くメーカーが考えられない使い方に対してはお手上げだった。これからは注意喚起も出来、事故を未然に防げるようになるというストーリーだ。これをなぜ、説明しないかは謎です。
 日本の最大の課題は、ソフトウェアの価値について、ベースラインが定まっていない点だ。ハードウェアを動かすための、必要悪と思われている領域のままになっているのがソフトウェアだ。例えば、QCDの特性をソフトウェアで回せる発想はないし、新しい事業モデルを作るための技術になる発想もない。
 あくまで仕様を書かれたものを品質高く、作るだけのものと捕らえられていて、ソフトウェア産業がいまひとつ伸び悩んでいる要因の1つだ。本来は、ソフトウェアは製造業の競争力を高めたり、価値を高めることもできるのに、それも出来ておらず、ソフトウェア化が進めば進むほど、日本の製造業は地位が下がっていくしかないと思う。
O 自動車産業の人はあまりソフトウェアに価値を認めようとしない。ある部品の技術に対し、0・1%しかソフトウェアの価値を認めないという。目に見えないソフトに価格を付けるのは論外だと言うのです。これは、極めて古典的なメインフレーム時代のソフトウェアに対する考え方と同じ。
 生産技術や調達の人の考え方がそうなのだから、ソフトウェアには有能な人材が行かない。3K職場のそのまた下のレベルの扱いしかしていいない。そこを打破しなければいけないのに昔から何も変わっていない。組込みソフトウェアはほとんど外注で、製造業の人に比べ、はるかに給料が低く抑えられている。
T 大阪のD大学のK先生が、米国の高給が取れる職業のベスト20を発表していました。うち何と5-6つがソフトウェア関連業種でした。システムアーキテクトやプロジェクトマネジャーなど4分の1がソフトウェア業種で占めていた。
O ソフトウエアの技術進歩がハードウエアより遥かに速いという意味で、ソフトウェアに優秀な人材が集まらない限りその産業は育たない。そのためにはインセンティブをどうやって政策的に作っていくのかを考えるべき。ハードのモノづくり専門家から人材は育ちにくい。
 かつソフトウェアは人件費である。それを抑えるためには優れたプログラム力は必要です。そこで、オブジェクト指向のスプリクト言語のパイソンやRubyなど優れたOSS(オープン・ソース・ソフトウェア)をもっと活用するよう、政策的にサポートしていく必要がある。同時にOSSを使うことが競争ルールをどう変えるのか、したがって契約のどこに注意すべきかについて、企業の知財部門が勉強しなければならない。
 もしRubyを使うと開発効率が5倍に向上するので人件費が実質的に5分の1に下がったことになる。何もインドに開発に行かなくても済み、地域産業も活性化できるのだ。ですから、ソフトウェアというとそっぽを向くようなモノづくりの人には早く退職してもらわないといけない(笑)。
 いま40~50歳台の人がソフトウェアによって始めて付加価値が生まれることに気づき始めてきている。その人をいろいろサポートしていくことが大事だ。でも今はソフトウェアからの提案を上に持っていくと、すべからくはじかれるという。これは深刻だ。
 自動車産業のサプライヤーであるB社がなぜ、なぜハード部門のビジネスを売り払ってソフトウェアだけに集中し、そしてなぜ高い収益を上げているのか、などを一つひとつ教えてあげれば、彼らもわかってくるはず。日本企業はいつも利益率が低くてB社に負けている事実を理解し、B社が途上国の企業に売っているからこそ高い利益を上げている事実を理解し、この背後に組み込みソフトの力があることに気づいて欲しい。
T B社はD社と比較されるが、冷蔵庫などの白物家電製品を扱っており、本当は日本の重電H社のオートモーティブ部門と近い組織である。かなり総合電機メーカーであったものが、自動車が主力に変わってきている。
O H社は車のN社にだけは専用ソフトで収めているが、他社にはほとんど売れていない。恐らく売るチャネルも売るノウハウも無いだと思う。その背景を分析すると面白い。仕方なく中国のローカル・メーカーに行っているがビジネスモデルとしては機能していない状態だ。・・・>申し訳ありませんが、この続きは本誌でご覧ください。

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