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10月は情報化月間
高度IT人材をどう活用するか

次代の産業界を担う若手IT先端人材をいかに育てるか。斬新なアイデアや技術の事業化を支援する未踏IT人材発掘・育成事業、そして次世代を担う若年層がITに関する高度な技術を合宿形式で学ぶことができるセキュリティ・キャンプ。IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)が展開する2つの事業について運営・利用の両サイドが思いを語った。

(出席者、敬称略)
・夏野 剛   未踏IT人材発掘・育成事業統括プロジェクトマネージャー
        慶應義塾大学 環境情報学部 客員教授
・小池 宏幸  プラスアド株式会社代表取締役社長 
       2010年未踏本体スーパークリエータ
・三輪 信雄  セキュリティ・キャンプ実施協議会 会長、企画・実行委員長  
        S&J コンサルティング株式会社代表取締役
・忠鉢 洋輔  筑波大学大学院博士後期課程3年生セキュリティ・キャンプ参加者
・小池 雅行  経済産業省 商務情報政策局 地域情報化人材育成推進室長

小池(雅):本年6月14日に閣議決定された「世界最先端IT国家創造宣言」では、日本における閉塞感を打破し、持続的な成長を遂げるため、世界最高水準のIT利活用社会を実現すべくIT人材の育成と教育の強化を掲げている。年内には、IT人材強靭化計画が策定される予定だ。
 すでに経産省傘下のIPAでは、2000年より未踏IT人材発掘・育成事業(以下、未踏事業)を進めている。未踏事業は、市場にこれまでなかった画期的なアイデアや技術の事業化に必要な人脈やノウハウ、資金面などを支援する仕組みだ。また近年、サイバーセキュリティ犯罪の多発化と、その脅威が社会的な問題になりつつある。セキュリティに精通した人材があらゆる組織で必要だ。そこで、2004年度より、就業前の若手を対象としたセキュリティ・キャンプを開催(2008~2011年度は「セキュリティ&プログラミングキャンプ」として実施)している。民間企業・団体によって構成される「セキュリティ・キャンプ実施協議会」とともに官民連携による情報セキュリティに特化した高度IT人材の早期発掘と育成の場として、多くの人材を世の中に送り出してきた。
斬新なアイデアと技術を事業化

夏野:イノベーションとセキュリティは、日本の成長を牽引する源のはずだが、現状はまだ、日本の社会にそれらが根付いていない。
 私は2009年から、未踏PM(プロジェクトマネージャー)、2011年から統括PMとして未踏事業に関わってきた。日本は、ITインフラに関して先進国だ。Webアプリなどデジタルコンテンツの消費額は米国に肩を並べる規模を有する。しかし、世界中に展開する日本発のサービスが出てこない。理由のひとつは、人材を育てる側にある。たとえば、日本の経営者はITの利活用における重要性を理解はしても、実際にみずから起業し、ビジネスをした経験が少ない。成功してそのまま企業人として終えるケースが多い。若手人材をサポートするエンジェルやベンチャーキャピタリスト、メンターなど、人を育てる側が育っていないのだ。また、スタートアップ企業に対するリスクマネーの出し手が乏しい。米国のシリコンバレーは逆で、ベンチャーキャピタルが人材に資金を回し、離陸させる仕組みがある。日本にもベンチャーキャピタルはあるが、8割が銀行など間接金融機関で、しかも資金供給のタイミングが遅い。その分、若手が大きく羽ばたくチャンスが損なわれている。
 未踏事業では経産省が若手を発掘し、伴走者となるPMを割り当て、資金を付けて支援をしている。未踏事業では、2013年度も120件の申請があり、うち17件22名を採択している。
 人材をサポートするPMも一流がそろう。たとえば、大阪大学大学院教授の石黒浩先生は世界的なロボット研究の権威である。実績と個性を兼ね備えた人間が個性的な人間を育てる仕組みが未踏事業にはある。これまでの横並び型の日本の教育とは異なる。それを10年以上も継続し、これまで1500名以上が輩出されている。中でもスーパークリエータに認定された256名は、若者にとって羨望の的だ。
 今年度採択案件も、面白いものが山ほど並んでいる。この中の一つ、二つが芽吹くと世界に通用するものになるだろう。
 過去の採択案件から羽ばたいた事業は多数ある。たとえば、ユーザーの嗜好を分析し、Web上の膨大な情報からそのユーザーに興味のあるニュース・記事を提供するグノシー。短期間に試作を繰り返すプロトタイピング手法でソフトやハードの製品開発を行うタクラム・デザイン・エンジニアリング。いずれも経営者は未踏事業で採択されたクリエータだ。後者の代表取締役社長である田川欣哉氏は、私がかつて携帯電話会社にいたときに端末のUIを開発してもらった。その他にもユニークな案件、人材が世界に向けて挑戦し続けている。

プログラミングより情熱が大事

小池:私は2010年度の未踏に採択された。筑波大学を卒業後、2000年にSONYに入社した。6年半ほど、インターネットや人工知能研究を行った。その後、研究開発の成果を事業化する業務に3年ほど従事して退社。現在のプラスアドを起業した。販売している「iPad電子楽譜プラットフォームpiaScore」は、ソーシャル楽譜というものだ。「世界中の楽譜をいつでも手元に」をコンセプトとしており、快適な楽譜の閲覧だけでなく、楽譜の上に手書きでデータを書き込めるので演奏方法の共有や音楽知識のデータベース化、日々の練習の管理の実現を目指している。2010年度の未踏事業に採択された案件がきっかけで誕生したアプリだ。現在、ユーザーが世界で30万人いる。未踏事業の意義は大きい。いまの仕事は、未踏事業で採択されたおかげだと実感している。特に、かつてNTTドコモでiモード事業を立ち上げた夏野PMのもとで、ビジョン、人脈、スキル、資金、プラットフォーム化のノウハウなど事業立ち上げに欠かせないものを強化してもらった。
 私は仕事柄、日々プログラムを書いているが、むしろ音楽の趣味が高じてpiaScoreの開発に至った。ソフトウェアのプログラミングを子供のうちから教えるもの大事だが、大人になってから学んでも遅くはない。プログラミングで大事なのは、言語の習得だけでなく、「世の中を動かす要素として何が必要か」を考えることだ。エンジニアにとってプログラミングも大事だが、どうやって世の中にアイデアを出していくかのほうがより重要になる。それを未踏事業のような形で国が支援していくことは大切だ。
夏野:プログラミングは、エンジニアにとって戦うための武器であるが、あくまでツールにすぎない。たとえば、戦場では剣を操る技術は必要である。ただし、誰かを切れ、と目標を出されて切る場合と、たくさん人がいる中で誰を切ればよいか、を自分で判断しながら切る場合があり、未踏事業では後者の能力が必要になる。単に指示された通り精度の高いプログラムを作る、高速なプログラムを作るというのは、日本人がやらなくてもよい。斬新なサービスを作るためのプログラミング能力は最低限必須だが、それ以上に、独創的なアイデア、事業やサービス立ち上げの困難を乗り切る情熱がないと続かない。
小池:資金だけがあっても起業は難しい。起業へのモチベーションをどう高めるかが重要だ。起業は怖いものではない、やり方を間違えなければ、そこそこ成功する。クリエータにもチャンスがある。アイデアや技術を世の中に広めていくのは未踏事業の意義でもある。当社は、夏野氏をアドバイザーに招き、出資もしてもらった。現在も未踏で培った人脈が事業運営の支えになっている。

セキュリティ水準の底上げ図る

三輪:2004年度から取り組んできたセキュリティ・キャンプだが、セキュリティを中心としたITに関する高度な技術を学べる場として着実に認知されつつある。参加者の平均年齢は18~19歳程度。13歳の中学生が参加し、大人顔負けの技術や知識を披露して周囲を驚かせたこともあった。夏休みを利用し、一週間ほど40名ほどが寝食を共にする。キャンプに来る参加者の顔ぶれをみると、自宅で複数のサーバーを運用していたが、サーバーに侵入されたなどセキュリティに関する実務上の課題意識を持ち、解決策を求めて集まってくるケースがかなり多い。出身地の学校ではトップクラスの生徒も互角に話せる仲間がこんなにいるんだ、という刺激を受ける。これまで40人ほど参加した合宿グループが10年分で400名になった。活動を支援するため、セキュリティ・キャンプ実施協議会会員が一口50万円の資金を出してサポートする官民連携のイベントである。
忠鉢:私は、2005年度に開催された第2回セキュリティ・キャンプへの参加がきっかけで、現在セキュアOS(セキュリティの強化を図った安全性の高い基本ソフト)の研究をおこなっており、キャンプにおいてはその分野の講師をしている。研究を突き詰めていった結果、教えられる人がごく少ないこの分野で,教える立場を兼務することになった。情報セキュリティ人材は、企業に勤める、経営者など組織のリーダーになる、教育者や開発者になる、などの道があるが、私のようなケースもある。
 私がプログラミングを学んだのは高等専門学校からだ。高専でサーバーやネットワーク管理に携わったが、なかなかうまくいかず、セキュリティ・キャンプに参加した。一週間ほど過ごして仲間ができた。皆すでにそれなりの知識はあるが、それぞれが互いの専門的な分野について情報交換し、技術的な相談に乗ってもらうなど、教えあえる仲間がキャンプで得られた。突き詰めた研究をすると孤独に陥りやすい。そこでセキュリティ・キャンプで培った人間関係が生きている。
また、チューターという制度があり、参加者の身近な見本として,また,小さいながらもキャンプをサポートする側として貢献することもできる。チューターを経験することで,セキュリティ技術に対するモチベーションが高まり,セキュリティ技術を深めるよいキッカケになっている.

セキュリティ人材に光を

三輪:育成した人材は活用しないと意味がない。いまやどの企業でもセキュリティが抜け落ちていると致命傷になる。そのため、セキュリティ分野は人材が足りないというが、実は日本ではセキュリティ人材に対する求人が極めて少ない。需給ギャップを埋め、育成した子たちが活用される場を作ることで日本全体の情報セキュリティのレベルが上がるだろう。
 セキュリティ人材は、暗号化や認証技術などの専門家である必要はない。それより、ITの基本部分を理解しているなど総合力が問われる。コンピュータウイルス対策ひとつとってもネットワークやサーバーなどを幅広い知見が求められる。セキュリティ・キャンプの目的は、セキュリティ専門家の育成ではない。合宿期間のわずか数日ですごい技術者は育たない。むしろ、多角的な視点を身に付けてもらい、学びのきっかけにしてくれることが重要だ。セキュリティがわかるプログラマーや企業人として将来、社会人になった時、仕事の中でセキュリティについて知りたい時にキャンプで出会った友達が社外にいることで励みや支えにもなる。
忠鉢:セキュリティ・キャンプを経験しているからといって、就職活動全般において必ずしも有利というわけではない。私自身も、就職活動を通じてそのことを実感した。私は就職活動で,民間では、セキュリティ関係の企業、それとセキュリティと直接関係のない企業それぞれを受けた。
 就職活動の印象として、ある分野に尖った能力を持つ新卒というのは、普通の企業では、取りづらい、使いづらいような雰囲気を肌で感じた。しかし、現在、キャンプのOBとしてチューターという立場で見ると、それをどう生かすかという観点が今後の日本企業には必要ではないかと思う。一般企業に高給をもらって雇われても、能力を発揮できない部署に配属され埋もれてしまうケースもある。他方、セキュリティ業界はまだまだ市場が小さく、給与水準も決して高いとはいえないのではないか。
 発掘するだけなく、一般企業をはじめ、雇用する側の理解が追い付いていないようにも感じる。プログラマーのほうもそうだが、能力や成果に対して妥当な待遇を用意できなければ,せっかくの人材が国内産業を見切って海外にいってしまったり,能力の研鑽をやめて普通の人材になってしまう。国にも考えて頂き、これから続く人が悩まないようにしてほしいところだ。・・・>申し訳ありませんが、この続きは本誌でご覧ください。

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