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経済産業新報、

「髙梨智弘の新経営教室~イノベーション(3)~」

新潟大学大学院技術経営研究科特任教授
                   日本総合研究所フェロー・公認会計士髙梨智弘

ポイント:
① 新しい時代(ナチュラルタイムズ)の要請に合わせたイノベーションが必要だ。
② 世界を驚かす技術革新だけがイノベーションではない。プロセスイノベーション、ビジネスモデルイノベーション、日本的経営イノベーションが再度見直され、これからは、アテンションイノベーションとイシイノベーションが日本復活の鍵を握る。
③ 大企業や開発型企業だけでなく420万社の日本企業が、イノベーションの対象である。
④ イノベーション能力は、教育によって向上できる。

1.時代が変わった!(第1回)
2.真実は価値基準の変化!(第1回)
3.狭義のイノベーションと広義のイノベーション!(第2回)

4.日本復活の鍵となるイノベーションとは?日本型イノベーション
前回、イノベーションの定義について述べたが、イノベーションの対象が狭義であれ、広義であれ、イノベーションを種がある変化と種がない変化に分けたのが、ハーバードビジネススクール教授のクレイトン・クリステンセンであった。クリステンセンによれば、持続的イノベーションと破壊的イノベーションがあると述べている(『イノベーションのジレンマ – 技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』1997年)。
クリステンセン曰く、
「(1)「優良企業は顧客のニーズに応えて従来製品の改良を進め、ニーズのないアイデアについては切り捨てる。イノベーションには、従来製品の改良を進める持続的イノベーションと、従来製品の価値を破壊するかもしれない全く新しい価値を生み出す破壊的イノベーションが、優良企業は持続的イノベーションのプロセスで自社の事業を成り立たせており、破壊的イノベーションを軽視する。」とする。そして、
(2)優良企業の持続的イノベーションの成果はある段階で顧客のニーズを超えてしまい、顧客はそれ以降においてそうした成果以外の側面に目を向け始め、破壊的イノベーションの存在が無視できない力を持つようになる。
(3)他社の破壊的イノベーションの価値が市場で広く認められた結果、優良企業の提供してきた従来製品の価値は毀損してしまい、優良企業は自社の地位を失ってしまう。」とする。

「人の尊厳の重視」の行動基準が前提
また、米ゼネラルエレクトリックス(GE)社のネッドハーマン(「ハーマンモデル」東洋経済新報社の著者、髙梨智弘監訳)が、既存のプロセスから起こる革新(イノベーション)と、何も無いところから起こる創造(クリエーション)と分けている。

前稿で述べた、「イノベーション・プロセス・ガイドライン(IPGL)」における定義は、「イノベーションとは、社会実態や環境の変化を洞察し、多様な分野とITを融合させ、新しい概念や技術・プロセスを生み出し、市場・事業・サービス・組織等を創出することにより、社会や顧客に新しい価値を提供すること」とあるように、一言で言えば、「価値を抜本的に向上させること」である。
そう考えると、「持続的であれ、破壊的であれ、また、革新であれ、創造であれ」、この新しい価値提供や抜本的な価値向上に相当するモノは、全て対象とする方が、イノベーションの地平を広くできる。
知は限りなく発展していく。過去の知は、現在の知につながり、未来に流れていく。
過去の知は、忘れ去られるだけでなく、現在の知の中に脈々と生きている。また、急に光り輝く知が現れることもある。そして、現在の知は、未来の知を作り上げていく。
このコンテキストの中で、企業の経営が日々、年々成長発展していくのが現実である。
このような事実は、イノベーションの世界でも同様で、上記の知の全てが関わってイノベーションが起きる。要は、対象を今のモノ・コト・イシを磨き上げていくのか、それとも、新たなモノ・コト・イシを見つけ出そうとするのかの、姿勢・意識・判断の問題である。

【日本的イノベーション】
欧米の国が、天才が多いとか、戦略策定の能力が高いとか、イノベーションが起きやすいとか、良く言われるが、現象と本質、また、活用実態と本来の能力、を混同してはならない。
日本の場合、時の為政者や制度に引っ張られて、さらに、それを後ろ向きな村社会の論理で裏付けをして、本質や本来の能力に蓋をしてきた経緯が多く見受けられた。
そこで、重い蓋を開ければ、イノベーションの種が吹き出すことは目に見える。
実は、過去の技術革新と言われるようなイノベーション、最先端技術の発明やその活用は、モノやプロセスのイノベーション、さらにはビジネスモデル・イノベーションであるが、それらは、全て人の意識に関わっている。
それは、有り体に言えば、「言うは易し行うは難し」の「知の結集」の話である。そう考えると、知の場をもともと内在させている日本人のメンタリティや日本型経営そのものが再度、脚光を浴びることになるだろう。
前向きな村社会の論理がイノベーションを後押しする。要は協働する姿勢・意識が重要であり、具体的に動くことであるので、日本型経営が、柔軟なイノベーション・プロセスになった瞬間に
日本的イノベーションが脚光を浴びることになる。

【新しい価値観】
今の時代には、新しい経営の理念・価値観・概念等が必要となる。それは、過去の成功の質とは違ったまったく新しい「人ベースの経営」に基礎をおいたイノベーションが要求されていることを理解しなければならない。
モバイルの活用によるイノベーションもそうであるが、その中身は、もの作り側から又は供給側からのイノベーションではなく、消費者側から又は需要側からのITやネットワークを駆使した目的(使いやすさ)から発想されたイノベーションが多くなっている。
その前提として、
① 「人の尊厳の重視」の行動基準、
② 「価値前提としてのICTシステム活用」の行動基準、
③ 「生活者としての視点」の行動基準、等
が挙げられる。
例を挙げれば、社会システムと機械システム(ロボットを含む)との共生のバランスをどうとるか、難しい課題が存在する。高齢化の例を挙げれば、それは全てができる介護ロボットを開発するのではなく、「人間の尊厳を守る、ここまでは人間が行うべき」と言う基準を明確にし、「開発の限度を引く経営者の決断」がイノベーションの成功要因となる。(了)

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