政策と産業の最新動向を伝え、解説する“クオリティペイパー”


川島宏一氏

川島宏一氏

求められる視座:オープンデータ、プライバシー及びセキュリティ

■講師1

佐賀県顧問/㈱公共イノベーション代表取締役
川島 宏一氏

私は2011年まで5年間、佐賀県庁でCIOを務めていた。CIOには、T型の能力が必要だと言われている。縦軸としてICTに関する深い知識、横軸として合意形成の能力が求められる。ICTで自治体行政を支援するには、各部署に分散するキーパーソンを組織を横断して結び付け、知識交流の場を作るリーダーシップが求められる。私は企画部門の部長級で全体の予算や計画を統括的にみる権限を付与されていた。
ただ、情報セキュリティについていえば、インシデントの発生に対して必ずしも十分に対応できなかったことが悔やまれる。本音を言えばCIOがCISOを兼務するのは職務上難しい。他の自治体でも同様の悩みを持っていると思う。ここ数年で行政現場もICTの技術変化の波にさらされている。マイナンバー制度の実施に向けたシステム改修も始まっている。業務プロセスおよび各職務で取り扱うデータの関係が急速に複雑化しているのだ。十年ほど前に策定した第一次セキュリティ対策基準、プライバシー対策基準は陳腐化し、最新のビッグデータ、オープンデータ、パーソナルデータの動向に対応させて更新しなければならない。ところが、自治体の中には危機管理部門を含めてセキュリティに精通した職員が少ない。CISOを役所内に設置する、外部の専門家のサポートを得るといった対応が不可欠だろう。
2013年11月には政府データカタログサイトが立ちあがる(編集部注/同年12月に試行版が公開された)。これはIT戦略本部が掲げる電子行政オープンデータ戦略に基づくもので、政府や自治体、行政機関が保有するデータを活用することにより、新産業の創出や経済活性化に資するものだ。行政側がデータの保有者として単に開示・提供側に回るだけでなく、政策形成などのために民間から開示されるデータの利用者にもなりえる。また、民間企業同士が保有するデータを橋渡しする役割も果たす場合もあろう。省庁の間でのデータの共同活用も必要になる。こうしたオープンデータの取り組みは、政府の透明化や行政への国民参加を促す米・英が中心となって世界をリードしている。
わが国でもすでに横浜市金沢区では各子育て家庭が必要とする行政サービスを、住所や子供の生年月日データをもとに抽出し親の携帯端末などに見やすく表示するウェブサイトを提供している。一方、呉市では患者のレセプトデータを活用してジェネリック薬品への切り替えを促して市の医療費を億円単位で下げている。私がCIOだった頃にはこうした行政側のデータを利用した民間との交流が乏しく、行政と民間の間での情報の非対称性が顕著だった。佐賀県だけでなく、あらゆる行政組織の内部をさえぎる壁、中央組織と地方組織の壁、国外と国内の間の壁などがあり、情報の流れが滞っている。
経済学者シュンペーターによれば、創造することは新しい組み合わせを試みることに他ならない。私は佐賀県でパスポートの発行期間を他の自治体では1週間かかるところを2日短縮した。業務プロセスを横断的に分析し、どこで時間がかかっているかを分析した。大きな投資をせずに、住民に対する行政サービスのレベルを高め、地域の産業を活性化することにつながる。オープンデータ戦略の推進により外部の知見を取り入れることで行政に新たな気づきをもたらせる。ただし、世帯に関する情報や個人の健康に関わるデータも流通する。セキュリティやプライバシー、通信量の急増に十分な配慮が必要だ。行政側が情報を出しやすくするために個人情報保護法などの再整備も求められる。ただし法でがんじがらめにするのではなく、むしろシンプルに、利用にあたって緩和する部分を見極める。利用者側である企業や住民もリスクを理解し責任をシェアする。イノベーションのさなかにはいろいろな摩擦が生じる。内外の知見をオープンに募り、摩擦を速やかに精度よく解消できる社会に変わることが経済成長の足がかりとなる。

米英がオープンデータをリード
政府の透明化や行政への国民参加促す

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