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エネルギー基本計画より-その2

(前号よりつづき)

(2)エネルギーコストの国際的地域間格差の拡大とその影響

北米で始まったシェール革命は、天然ガスを始めとして国際的な地域間におけるエネルギー価格に大きな格差を生じさせており、このことが、各国の産業構造に対して大きな影響を与える可能性がある。
IEAの世界エネルギー展望(World Energy Outlook)2013 では、米国内の天然ガス価格は欧州の4分の1以下、日本の6分の1となっており(2012年平均)、この地域間のエネルギー価格差が継続した場合、世界で産業部門のエネルギー使用量の7割を占めるエネルギー集約型産業(化学、アルミ、セメント、鉄鋼、製紙、ガラス、石油精製)については、日、米、EUを比べた場合、米国のみが拡大し、日、EU合わせて現在の輸出シェアの3分の1を失うとの試算を示している。
このように、エネルギーコストの国際的な地域間格差が、エネルギー分野に留まらず、石油化学産業等も含め、産業の活動に大きな変化をもたらし、経済成長や産業構造に大きな影響を与える可能性がある。

4.わが国の温室効果ガス排出量の急増

化石燃料依存の増大は、コスト面だけでなく、地球温暖化問題への対応についても困難をもたらしている。現在、エネルギー起源の温室効果ガスの排出は、発電部門が大幅に増加に転じている。
2010年度の二酸化炭素排出量と比べて、2012年度の一般電気事業者以外の排出量が29百万トン減少しているにも関わらず、一般電気事業者の排出量が112百万トン増加した結果、全体として二酸化炭素排出量は83百万トンの大幅な増加となった。
これまで国際的な地球温暖化対策をリードしてきたわが国の姿勢が問われかねない状況となっている。また、こうした変化は、企業活動のライフサイクルアセスメントに悪影響を及ぼし、企業の海外移転の加速につながる。

5.東西間の電力融通、緊急時供給など、供給体制に関する欠陥の露呈

(1)電力供給体制における問題

東日本大震災では、太平洋側の多くの発電所が停止し、広域的な系統運用が十分にできなかったことから、不足する電力供給を手当てすることができず、東京電力管内において計画停電を実施することとなった。
2011年7月から9月には、電力供給不足による停電を避けるため、電気事業法第二十七条に基づく電気の使用制限が行なわれた。2012年、2013年には節電要請などの電力需給対策が講じられた結果、電力の需給バランスは維持されたが、老朽火力発電所を含め、火力発電をフル稼働させることで補っている状況にあり、発電施設の故障などによる電力供給不足に陥る懸念が依然として残っている。
こうした状況に対応するためには、電力需給バランスに比較的余裕のある地域から電力不足が懸念される他の地域に電力を融通するなどの柔軟な対応が必要となるが、わが国では東西間等の地域間連系線の容量が不足し、広域運用の仕組みも不十分である。
さらに、電気料金・サービスに関するメニューも多様性を欠き、需要家側の柔軟な取組を供給構造にうまく取り込めないという供給体制の柔軟性の欠如が浮き彫りとなっている。
こうしたエネルギー供給の不安定性に対して、地域の特徴も加味して、様々なエネルギー源を組み合わせて最適に活用することで対応力を強化することも可能な分散型エネルギーシステムの有効性が認識され、その構築を進めていくことが必要となっている。

(2)石油・都市ガス供給体制における問題

東日本大震災の経験は、危機時における石油・都市ガスの緊急供給体制の在り方についても多くの課題が存在することを明らかにした。
都市ガスについては、被災地の仙台においてLNG基地やガス供給網の損壊により供給が滞ったが、新潟から仙台につながるガスパイプラインを活用した日本海側からの都市ガス供給施設の存在がバックアップ的機能を果たした。今後、利用の増加が見込まれる天然ガスについては、パイプラインを含めて安定供給を確保する観点からの検討が必要である。
供給障害に陥った電力や都市ガスを補完したのが、石油とLPガスであった。被災地から政府が受け付けた緊急物資供給要請の約3割は石油製品(ガソリン・軽油・灯油等)であり、石油精製・元売各社は系列を超えて共同で危機に対応し、危機に強いエネルギーとして石油の重要性が再確認された。
しかし、地震や津波により複数の製油所が操業を停止し(うち3つの製油所は長期の操業停止)、道路・港湾等の物流インフラが地震・津波の影響で寸断され、輸送手段(タンクローリー・タンカー)や物流基地(油槽所)も被災するような事態を想定していなかったこと、石油供給支援にかかる関係省庁間での協力準備が不十分であったこと、石油精製・元売各社が系列を超えて共同で危機に対応することに不慣れであったことなど、被災地への円滑な石油供給に大きな課題が存在することが確認された。

6.エネルギーに関わる行政、事業者に対する信頼の低下

東京電力福島第一原子力発電所事故以前から、事故情報の隠蔽問題や、もんじゅのトラブル、六ヶ所再処理工場の度重なる操業遅延、高レベル放射性廃棄物の最終処分地の選定の遅れ等、原子力政策をめぐる多くのトラブルやスケジュールの遅延が、エネルギーに関わる行政、事業者に対する国民の不信を招いてきた。
さらに、東京電力福島第一原子力発電所事故とその後の対応を進める中で、行政と事業者は、情報共有の在り方、地元とのコミュニケーションに関する問題意識の不足など多くの批判を受け、国民からの信頼を著しく低下させる事態を招いた。

7.需要動向の変化-コージェネレーションの導入増や節電行動の変化

東日本大震災後、我が国の最終エネルギー消費は、2010年から2012年にかけて4.2%減少したが、そのうち電力消費については、8.0%の減少となり、エネルギー全体の消費減少を上回る減少幅となった。
一方、コージェネレーションの発電容量は、2010年度に比べて、2012年度は2.7%増となり、電気料金上昇の影響が、産業・業務部門におけるコージェネレーションの増加という形で、エネルギー利用の在り方に変化をもたらしている可能性が示されている。
また、一般家庭においても電気料金の負担感が徐々に増してきている状況にあり、家庭における節電行動の動機は、電力供給不足への協力という動機から、電気料金上昇の家計への影響を緩和するためのものへと変化し始めている。
幅広い住民の参加を得た、時間帯ごとの電気料金の価格差に大きな差をつけるCPP(Critical Peak Pricing)の実証事業では、電気料金を3~10倍に引き上げた場合には、電力使用のピークを20%程度抑制する効果が確認されている。
現在のようにエネルギー価格が全体的に上昇圧力を受けている状況では、需要側に働きかける手法は、大きな効果が得られる可能性がある。

8.中東・北アフリカ地域の不安定化等資源供給地域の地政学的構造変化

東日本大震災を契機とした国内の大きな環境変化とともに、前回エネルギー基本計画(2010年6月閣議決定)以降、国際的な地政学構造にも大きな変化が現れている。
わが国が化石燃料、特に石油を依存している中東地域では、2010年12月に発生したチュニジアのジャスミン革命が、ヨルダン、エジプト、バーレーンなどへと飛び火し、いわゆる“アラブの春”が中東・北アフリカ地域に拡がった。
この結果、こうした地域全体の政治・社会構造が不安定化し、原油の供給不足発生への不安から原油市場も不安定化することとなった。このような状況は、エジプトの情勢不安、シリアの内戦化など、現在も継続しており、当該地域の安定化に向けた道筋は、未だはっきりとは見えていない。
また、イランの核開発疑惑は、地域の緊張を高めた。イランに新政権が発足し、関係国との対話が進んでいることが今後中東情勢にどのような影響を及ぼしてくるのか、とりわけ、ホルムズ海峡の安全通行問題も含めた中東からの石油・LNGの安定供給にどう影響するか、引き続き注視しなければならない状況になっている。
さらに、中長期的には、次に述べるシェール革命による米国のエネルギー分野における自立化が、米国による中東情勢への関与を弱めさせ、結果として中東情勢をより不安定化させる可能性についても、エネルギー安全保障の観点から考慮することが重要である。
日本のシーレーン全体に視野を拡大すると、特に北東アジア・東南アジア等で領土・領海をめぐる緊張関係が見られるとともに、東西の海を結ぶ物流のチョークポイントであるマラッカ海峡を中心に、東南アジアでは海賊事件の発生件数は近年増加傾向にあり、我が国が直接関わるエネルギー供給ネットワークをめぐる状況は不安定性を増してきている。

9.北米におけるシェール革命の進展による国際エネルギー需給構造の変化の兆し

シェール層に含まれる非在来型の天然ガス・原油の開発が北米大陸で始まったことが、世界の化石燃料供給構造が大きく変化する可能性があることを明らかにしつつある。米国におけるシェールガスの開発は、2006年以降急激に増加している。
このため、リーマンショックによる金融危機で天然ガス価格が急激に下落した後、2010年から国際的には天然ガス価格が再び上昇傾向に転じたのに対し、米国では、天然ガス価格が低位なまま推移し、原油と連動して価格が決まる国際ガス価格市場とは異なる天然ガス市場が成立している。
シェールオイルについても、2010年から2012年にかけてシェールオイルの生産量は2倍以上増加して、米国の石油生産量は世界有数の規模となり、今後、石油についても米国が北米大陸の外に依存する割合を低下させていく可能性が開けている。
シェール革命の果実を得た米国は、2018年には、天然ガスの純輸出国になることが見込まれるほか、電源を石炭から天然ガスにシフトする動きを加速している。これにより米国から欧州への石炭の輸出が拡大しており、欧州では石炭火力発電への依存が深まりつつある。
北米大陸の国際エネルギー供給構造からの自立化の動きは、隣接する南米大陸における非在来型を含む石油・ガスの開発も促していく可能性が高く、西半球が中東地域を中心とした化石燃料の供給体制から自立していく方向に進んでいくと見込まれる。
この結果、中東地域はエネルギー需要が増大するアジア地域への供給を拡大し、既に中東地域に石油供給を大きく依存するアジアが、中東地域への依存を更に深めていく可能性がある。
このような国際的なエネルギー供給構造の変化は、天然ガスなどを中心に世界の需要構造にも大きな影響を与えることが見込まれ、国際エネルギー需給構造は大きく変化していく可能性がある。
国際エネルギー市場の重心がアジアにシフトしていく中でも、特に台頭する中国の影響力が大きく拡大している。国際政治・経済・エネルギー市場の中で高まる中国の影響力・存在感を踏まえつつ、その中国とどう向き合い、国際的な秩序をいかに形成していくかはわが国のみならず今後の世界全体の課題となる。
わが国としては、アジアのLNG高価格問題や環境問題など、共通課題の解決に向け
ては、適切な協調関係を保つことも検討する必要がある。

10.新興国を中心とした世界的な原子力の導入拡大

急激なエネルギー需要の伸びと、中東・北アフリカ地域の不安定化は、中東の化石燃料への依存を深めているアジアを中心とした地域で、エネルギー安全保障の観点から、化石燃料を補完する有力なエネルギー源として、原子力の利用を拡大しようとする動きを加速させる方向に作用している。
新興国における原子力の導入は、今後拡大していく可能性が高く、日本の近隣諸国でも原子力発電所の多数の新増設計画が進められている。
一方、原子力の平和・安全利用、不拡散問題、核セキュリティへの対応は、エネルギー需給構造の安定化だけでなく、世界の安全保障の観点から、引き続き重要な課題である。
新たに原子力を利活用する国が増大していくことが見込まれる中、原子力の国際的な利活用を管理してきた国際原子力機関(IAEA)等の国際機関や原子力利用の主要国の役割は、今後さらに重要性を増していくことになり、原子力をめぐる議論は、一国に閉じた議論では十分に対応できるものではなくなり、より国際的な観点で取組を進めていかなければならない課題となっている。

 

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