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2023年に特許審査期間14か月めざす特許庁
今後10年間で「世界最速・最高品質の知財システム」の実現に向けて、特許庁は新たな10年目標を設定している。公務員働きがいランキングでも3位になった特許庁の澤井調整課長に、新しい目標にどう取り組むのか、聞いた。

澤井智毅氏に聞く

澤井智毅氏に聞く

「世界最速、最高品質の審査に向けて」
品質向上とともに2023年度特許審査期間14ヶ月めざす特許庁

特許庁 調整課長 澤井智毅氏

――これまでの10年間、最重要課題として取り組んできたFA(一次審査通知)11の目標達成まで、どんな取り組みをしてきたのか?
まず、2002年に知的財産基本法ができ、特許審査の的確かつ迅速化が第14条で示され、04年にFA11という10年間の目標が立てられた。これは、病院の待合室のように行列が出来ていた、特許審査待ちの期間を11ヶ月に縮めるという大目標であった。
この目標設定に先立ち、まず第1に審査官の増員に着手した。国家公務員に関する総定員法の規定で増員が厳しい中、任期付公務員という制度を大幅に取り入れ、毎年98名の任期付審査官を増やし、5年間で500名の増員を図った。2005年の審査官数1200名が現在、1700名と大幅に増員されている。
次に、先行技術調査の登録機関を1機関から10機関に増やし、下調べ件数を22万件に増やした。あらかじめ登録機関が文献をサーチし、それを直接に審査官に説明するため、審査の効率化に繋がる仕組みであり、予算を拡充し、審査の迅速化を図った。
この2つはアウト対策で特許庁から出るものに対する対策、供給量対策であった。3つめはイン対策、入ってくる量の対策である。
当時の特許出願は、玉石混淆と言われていた。出願の中には石もあり、出願合格率は50%を切っていた。出願内容は公開されるため、ノウハウが内外に漏れるし、内国偏重の傾向も強く、その是正のため、特許出願や審査請求の量から質への転換に繋がるよう、各種の特許関係手数料の大幅な見直しを図った。
このようなアウト・イン対策により、08年当時、29・3ヶ月掛かっていたFA期間が今年3月に11ヶ月を達成、無事目標をクリアできた。また審査官一人当たりの1次処理件数239件(12年)は、米国の3倍、欧州の約5倍の処理量を実現している。中間書類も含め平均1日2件以上対応するという神業で、審査待ち件数を大幅に減らしている。
―― 一方、特許を取り巻く環境が大きく変化しているが、現状は?
中国が09年より、大幅に特許出願件数を増やし、13年には82・5万件と米国を20万件上回る世界一位の出願国となった。日本は現在32・8万件とこの5年間出願件数は横ばいだ。しかし、企業が厳選して特許出願するようになり、特許出願の合格率が70%になった。出願で拒絶されるような案件はノウハウのようなものが多く、公開されて真似されてしまう。これが30%に減ってきており、玉中心の出願に変化してきており、この傾向は今後も続くと思われる。
一方、日本からのPCT国際特許出願はこの10年間で2倍の4万3千件と急増しており、日本企業が国内の出願を抑え、グローバル展開を図っているのがわかる。特許・意匠・商標の国際出願を増加させているのが今の現状であり、良い傾向であると思っている。

――このたび、「世界最速・最高品質の特許審査」が打ち出された。その実現のための取り組みを教えて下さい
特許の診断待ちにあたるFA11を達成し、診察は早くなった。次は治療にあたる「権利付与までの期間」を2023年度までに14ヶ月にする目標が立てられた。勿論、拙速な治療をユーザーは望まないため、標準的なケースを対象にした。FAも10ヶ月とする、迅速化・効率化が第1の柱だ。
そして、審査の質の一層の向上、この2本柱を進めていく。そのため、26年度予算で100名の任期付審査官の補充が認められた。
質の維持・向上では、外部有識者委員会の設置、品質ポリシーに沿った品質管理の実施、面接審査の拡充、審査基準の見直し、調査の拡充、審査官協議の拡充などの施策を展開していく。
ここでの課題の1つが10年前に認められ任期付審査官の任期だ。昨年度末で任期が来たため、このままでは毎年100名ずつの減員が出る。これを毎年100名補充できたとしても審査官数は横ばいにしかならない。
世界のトレンドはプロパテント化であり、中国はこの10年で審査官を約6倍に増やし、日本の3倍の5730名となっている。米国も倍増の7831名に増やしている。両国ともさらに拡充する予定で、日本だけが減少しても良いのかが問われている。
10年前、日本は特許出願大国であった。各国の特許庁に出願されると、その内容はその国の言語で公開されるために、日本への特許出願が相対的に多い時代は、海外の技術情報の60%が日本語に無料で翻訳され、先行技術調査のデータベース(DB)が自然に作れていた。この技術導入が出来ることが特許制度のうまみなのである。いまは中国、韓国の文献が60%を占めるように様変わりしている。
日本はいまやそのうまみを中国に取られている状況だ。従って、急増する中韓文献の中国語や韓国語を翻訳したサーチシステムの拡充を図っていかなければならない。
――最近はASEANと特許庁の連携を強化しているが、その狙いは?
次の成長市場であるASEANには中国や欧米企業も投資を増やしている。日本も相当投資をしているが、それに見合った特許出願がなされていないのが現状だ。フィリピン、マレーシア、シンガポール、インドネシア向けの出願シェアは15%程度で、欧米が45-65%のシェアを取っている。
彼らは明らかに20年先を見て「札」を張り、ASEANでの事業獲得に意欲的だ。特許庁としては、日本企業にとっての予見性を高めるために、日本の特許制度と同様なシステムにしてもらえるように、各国に働きかけているところだ。
まず、第1には日本の審査官を各国に派遣し、審査基準や運用を輸出する。各国の審査官の育成受け入れもしている。
今後は、門外不出であった日本の審査官育成のためのプログラムやシステムをASEANに提供するべく、体制を整えている。日本では、徹底的に審査官の質を上げるための教育を施しており、これらを伝えることにより、ASEANでのばらつきのない制度運用と調和が実現できるのではないかと期待している。

主要国の特許審査官数の推移(2003-2012)

主要国の特許審査官数の推移(2003-2012)

 

審査の迅速・効率化と質の向上をめざす特許庁

審査の迅速・効率化と質の向上をめざす特許庁

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