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「年末から原油価格は上昇する」
原子力の平和利用こそ日本の責務

田中理事長

田中理事長

笹川平和財団理事長 田中伸男氏に聞く
(前IEA事務局長)

わが国経済は円安・株高の上に、原油安という非常にラッキーな環境にいまある。5月までには政府は今後のエネルギー構成比(エネルギーミックス)の方針を打ち出す予定だ。そこで、国際エネルギー情勢に詳しい、前IEA(国際エネルギー機関)事務局長の田中伸男氏(笹川平和財団理事長)にこの原油安はいつまで続くのか?またエネルギーミックスにおける原子力の比率はエネルギー安全保障の観点からどのくらいが相応しいか、聞いた。

–この120円の円安に関わらず、原油がバーレル60ドルという価格で安定している。アラブでは紛争も多くあり、不安定にも関わらず、原油安。この国際エネルギー情勢は?
確かに原油は一頃に比べ、半値になっている基本は需給がそうなのであり、供給が全く落ちていない。北米のシェール革命によりガスと石油の生産はずっと増えてきていたが、価格が下落してきてもそれほど生産が落ちなかった。
かつイラクもISISにより揉めていたにも関わらず、生産が落ちず、昨年12月には37年ぶりの高生産を記録した。
そのため、供給が調子が良い反面、需要が縮んでいる。EUはギリシャ問題の再燃でユーロ危機が起き、ロシアの制裁の反動で需要が減った。中国も経済のスローダウンと汚職追放による引き締めで需要が減っている。
景気が良いのは米国だけで、日本はアベノミクスで株だけは高いが、実体経済は必ずしも良いとは言えない。そこで昨年秋口に市場は需給ギャップが生じ、「原油価格は高過ぎ」と見たわけだ。そして価格は下がったが、相場は必ずオーバーシュートする傾向がある。そこで働いたのがOPECの11月の決定だ。「その総会で減産しない」と決めたのだ。
その理由にはいろいろの説がある。1つは、サウジの穏健派とイラン、ベネズエラなど強硬派の合意が取れなかった。その時、IEAはOPECコールを150万バーレルとしたが、OPECは減産しなかったのだ。
これは今の需給ギャップの大本は北米のシェール革命にあり、これがどれだけ持続性があるのかチェックしたかったようだ。サウジと米国がつるんで、イランやロシアなど原油安にして困らせようとしている、陰謀説も出ている。
しかし、サウジの本当の狙いは、減産して価格が上がって一番得するのはシェールオイルであると考えたのだろう。サウジのオイル原価は1バーレル10ドル。50ドルに下がってもまだまだ余力がある。
一方、シェールオイルの原価は1バーレル40-80ドル。安くなって困るのはシェールオイルであり、「価格を下げてどうなるか」様子を見ているのではないか?
過去にオイルショックが起きて価格が上がり、その後何が起こったか?高い石油が採掘で採算が合うようになり、北海油田でもロシアでも石油が生産され明らかに世界が供給過剰になった。今の状況と似ている。価格が高騰したため、日本を始め先進国は省エネを進め、需要が落ち込んだ。
当時サウジは減産で対応したが、価格は下げ止まらず、シェアを落とすダブルパンチを食らった。ヤマニ石油相はそれでクビになってしまった。その間違いを今回犯さない対応をしているのではないか?
供給過剰の主因はシェールであるので、価格が下落しても生産が続けられるのか試しているように見える。
逆に見ると、IEAが最近、「今の石油マーケットは新しいイシューを開いた」と言っている。OPECが石油価格をコントロールする力を放棄しつつあり、その役目、需給を調整するのがシェールオイルだと言い始めている。
この意味は、シェールオイルは立ち上がりも早いし、閉めるのも早い。価格が上昇すれば生産を増やすし、下がれば減産する特徴があるので、その実力が今試されているのではないか?
シェールは徐々にこれから生産を減らしていくだろうが、すぐには減らない。
一度掘った所に岩を砕いて水を注入して石油を取り出すが2年経つと枯れてしまう。1回取り出したら全て取りつくさないともったいないので多少、価格が下がっても生産は止めない。
その代わり、高コストの油田では次に掘るインセンティブが働かなくなるので1-2年のタイムラグがある。特に来年はぐっと減る予定だ。
もう1つの最近のトピックはイランだ。核開発の合意が6月に出来そうであり、となるとイランの石油が世界にばら撒かれることになる。経済で困っているイランが安い価格の石油を売り出せば、価格にはマイナスに働くだろう。まだ予断は許さないが・・・・。
中長期的にみると、今後石油生産を増やしてくるのはカナダのオイルサンド、ブラジルの深海底が増えてくるが、北米のシェールは2020年を境に伸びが止まってしまう。その時から中東依存が強まってくる。カギはイラクなのだ。
ポテンシャルが高く、ISIS問題があり、投資も進んでいないのに本当に生産が伸びるのか?という議論がある。
石油価格が下がると、世界中の石油開発が止まり、中東、特に不安定なイラクに依存しなければならなくなる。そして、価格が下がるとサウジが国内治安維持や庶民にまく予算の減額、周辺国への援助も減り、中東の不安定さがさらに増してくることにつながっていく。そこへまた依存度が高まる懸念がある。
中長期的にはこのまま原油価格ではありえない。まして、今年の後半から生産が減ってくると、原油価格は上昇していくであろう。安心することなく日本は省エネを進め、エネルギー安全保障上も自国のエネルギーがまるでない日本は、原子力もある程度やっていく必要がある、というのがIEAの見方だ。

–富士通総研のデータによると2030年に原発40年運転を前提とすると原子力は10%にしかならないそうだ。エネルギーミックスについてどうお考えか?
原子力をどうするかが一番の課題だ。福島原発事故以前は原発比率が30%あった。日本は自国にエネルギーがない国で、再生可能エネルギーを使うといってもベース電源の中で30%を持つ必要がある。
今の軽水炉は40年を超えて使って稼働率を上げてもどうしても20%、IEAの見通しも2040年に20%である。これでは足りない。2040-50年までを考えれば軽水炉だけで考えてはいけないと考えている。軽水炉に変わる、より安全で核不拡散性が高く、ごみ処理の楽な炉を開発する必要性がある。
政府は原子力をエネルギー安全保障上も需要で、安全対策を施してもコスト的に安い、CO2を減らすなどと重要性を訴えているが、福島事故を見るとそれだけでは国民は納得しないであろう。
持続可能なニュークリアポリシーは、さらなる条件を満たさないと国民が納得しない。その条件はパッシブ・セーフティな受動的安全性であり、ごみ処理が可能で10万年も保管する必要がなく、途上国も原発を導入していく際、核不拡散が守れる技術でないと安心できない。
この3つの条件を満たすような原子力システムをやるべきではないか?と考えている。これを満たす炉としてはアルゴンヌ国立研究所で開発された統合型原子炉と乾式再処理(電気分解を使ったパイロプロセシング)が一番近いと仮説を立てている。
これはパッシブセーフティ(受動的安全性)が証明されていて、1986年に実験を行い、全電源喪失をしても炉が自然に止まっている。また、核不拡散性からいうと、このシステムは高速炉の隣に再処理プロセスがついていて、プルトニウムが施設外に出て行かないのでテロを受けにくい構造になっている。
またプルトニウムが純粋に取り出しにくく、爆弾などの再利用が困難という特性を持っている。最後に、燃料が再処理されて使われ、最後に高レベルの放射能廃棄物が出てくるが、天然ウラン並みにもどるのが300年で済む。10万年かかる今の核燃料サイクルと比べれば、処理の方法も比較的対応し易い。
かつこの技術の優れたところは、福島原発の溶けた燃料(デブリ)を処理するのに有効な技術であり、もし取り出せれば、燃料として使用できるそうだ。
デブリは県内処理でないと厳しく、炉から取り出した後を考えれば、これから廃炉になる福島第2原発に、この統合型原子炉の研究をする必要があるのではと考えている。
この炉は5万キロワットの小さい実験炉であり、商業炉としてはGEと日立がプリズムを開発している。商業ベースでは小型モジュラー型の炉を実験して見るといい。
この炉に積極的なのが韓国で、日本と米国と国際共同プロジェクトとして福島でやれば、世界に対し、途上国向けの核不拡散の原子力の平和利用のモデルを発信できると考えている。これを世界に広めるのは福島で事故を起こした日本の責務であり、日本の技術に対する「信頼回復」につながる、災い転じて福となす、プロジェクトではないかと思っており、
これを笹川平和財団の新規プロジェクとして取り組んで行きたいと考えている。

わが国は1次エネルギー自給率が低い、根本的脆弱性を抱えている

 

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