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特許審査ハイウェイ(PPH)10周年
34か国・地域に拡大した特許審査ハイウェイの現状と今後

日本が提唱して10周年を迎えるPPH(特許審査ハイウェイ)制度が各国・地域から絶賛され、10年間で34か国・地域がこの制度に参加している。
この制度に深くかかわってきた澤井課長に現状と今後を聞いた。

澤井智毅氏

澤井智毅氏

特許庁調整課長 澤井智毅氏

「21世紀の知財分野での最大発明、PPH」

まず、PPHについて、主要国、先進国特許庁の長官や副長官が2013年秋に集い、今世紀最大の知財の制度的貢献は何かが議論された際、多くの参加者が異口同音に「それはPPHだ」と絶賛してくれている。日本が2005年に提唱して10年。すでに34か国・地域が参加(2006年7月にスタート)しており、主要国の長官らの言葉を裏付けるように、世界的に本当に素晴らしい制度であることが立証されている。
PPHは、ディズニーランドのファストパスに似ており、先にパスを受けておくと行列の順番を待たずに横から入場させてくれるような仕組みだ。あるPPHの参加国において特許の判断を得た場合、それがファストパスになり他国において早期審査が受けられる。
例えば、日本企業が、日本で特許が付与されたことを他のPPH参加国に伝え、PPHを申請すると、その国で早期審査が受けられる。日本の品質の高い特許審査に合格したものとして尊重されるため、その国での特許合格率も当然に上がるという仕組みだ。
なお、米国では特許の早期審査を受ける際に特急料金として4,000ドル(約48万円)必要だが、このPPHでは特急料金はいらない。
PPHがなぜ必要になってきたかというと、各国での知的財産に対する意識が高まり、出願が増えてきたことによるバックログ(審査の遅延・滞貨)が顕著になってきたことを背景にしている。これを解決することが国際的な共通の課題となってきていた。
そこで、国際的な審査協力をしながらバックログ対策が行えるPPH制度を、日本の特許庁が構想を練り、世界に提案したのである。
PPHの妙味は、審査の国際協力を進めながらも、各国の審査を行うという主権を尊重できることにある。第二国は、第一国で審査した内容を参考にしながら、自国で判断が出来るため、効率性を高めながら、特許の質を高めることが出来る。
このように、各国の審査の主権が守られるので、新興国を含め10年の間に34か国・地域が参加したのだと思う。また、特許制度が多少異なっていても利用できる。事実、先発明主義であった当時の米国が、この枠組みに最初に参加した。
—PPHにおける日本企業のメリットは?
まず、日本企業はファストパスをもって諸外国に行ける。ここ10年の特許庁の国際戦略は、外国でも日本と同様に予見性をもって円滑に権利が確保できることが大きなテーマだ。日本の特許を持っているとすぐに審査してくれ、特許合格率が高くなるのは日本の企業にとって、有利である。今、PPHの最大の利用者は日本企業で、件数も現在、2万1754件と世界のトップである。うち半分が米国の特許庁を第二国に選んでいる。使う国が一番メリットを享受できるので、米国の企業も最近使い始めてきている。
—PPHは2国間同士がまず、結んでいく制度なのか?
この制度は、まず2国間が基本だ。それが34か国・地域同士の束になって動いていく仕組みなのである。今後の課題は、各国間の申請書の様式を共通化したり、時期的な制限を合わせたりするなど、ルールの一本化にあり、これに向けた話し合いを始めている。これをグローバルPPHと呼んでいる。これも日本が提唱し、すでに日本を含む19か国・地域が賛同してくれている。
—このPPHの効果については?
通常10カ月程度要する一次審査通知までの期間は、PPHでは3カ月を切るようになってきた。特許合格率も上がる。合格率が上がると言うことは、審査官とのやりとりも減るため、代理人費用が安く済むメリットもある。
米国の特許合格率は平均して50%位であったが、PPHルートだと合格率が約90%になっている。一次審査期間も平均18カ月だったものが、PPHでは5カ月を切るまでに短縮化している(2014年3月現在)。
次に、日本からの提唱として、改良版の「PPH MOTTAINAI」が動き出している。例えば、3か国目に申請があった場合、1か国目での結果を待たずに、2か国目における審査結果を基に3か国目でも審査を始めるファストパスを与えるというもの。PPHの効果を広げることが出来る。
—その他の国際協力については?
まず、日米の特許審査官が協働して調査を実施することに関して、議論・検討を始めている。審査の途中で日米間で情報が交換出来れば、より特許の審査の精度が上がる。判断を申請者に伝える前に、お互いの国での特許情報を相互に照らし合わせれば、審査のさらなる向上が図れる。何より、日米の特許審査官が協働して調査を実施することにより、日米の特許に対する信頼性は一層増すものと確信している。
もう1つは、PCTの管轄の課題。PCT(特許協力条約)出願の先行技術調査の依頼が他国の出願人からあれば、日本で作成しても良いのではないかと考え、ASEANの国々に加え、今年から米国と議論を始めている。
特許制度に関する日本の発言力は近年、特に高まってきている。国際協力では、PPHのみならず、日米欧中韓五庁長官会合での制度調和の議論を提唱し、情報分野においても、世界で初めての電子出願に取り組み、先行技術調査のアウトソーシングも実現した。我が国特許庁の国際的な役割はさらに高まっていくであろう。

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