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『 右脳インタビュー 』
齋藤 健さん 農林水産副大臣 衆議院議員

人口減少、国内市場の縮小、高齢化による消費量の減少と日本の農業はかつてない危機的状況に直面している。「今までと同じやり方を続けることこそリスクである」いう齋藤氏に今後の改革の取組みについて、聞いた。
1959年東京都生まれ東京大学経済学部卒。ハーバード大学ケネディ行政大学院卒(修士、1991年)通商産業省入省後、通商産業大臣秘書官、資源エネルギー庁電力・ガス事業部電力基盤整備課長、埼玉県副知事(出向)を経て、経済産業省退官。2009年衆議院議員初当選、環境大臣政務官、自民党農林部会長を歴任後、2015年、農林水産副大臣に就任。

主な著書
『転落の歴史に何を見るか―奉天会戦からノモンハン事件へ』 ちくま新書 2002年

片岡 今月のインタビューは農林水産副大臣の齋藤健さんです。それでは、日本の農業が抱える問題についてお伺いしながらインタビューを始めたいと思います。
齋藤 今、日本の農業は大きな曲がり角に直面していて、このままいけば壁に激突します。最大の問題は人口の減少で、今日本は年20万人以上が減少していますが、やがて年80万人を超すような急速なものとなり、2050年には人口が3割減少しているともいわれます。
当然、人口減少とともに国内マーケットはどんどん縮小し、さらに高齢化で一人当たりの消費量も減っていく、かつて経験をしたことがない状況となっています。そうした中で農家は高齢化し、耕作放棄地も増え、後継者もいなくなってきています。ですから、今までと同じやり方を続けることが大きなリスクとなっています。
一方、世界を見れば、異常気象の激化の兆しもあってこれまで以上に異常気象による食料危機の可能性について考慮していかねばなりませんし、世界の人口は飢餓をかかえながら急増しています。そういう大きな方向の中で、なんとか乗り切ることができるように農政を展開し、改革に取り組んでいます。やらなければいけないことがたくさんあります。
片岡 例えば、どういった取り組みをされているのでしょうか?
齋藤 大きく二つの方向に対応しないといけません。一つは、海外のマーケットを獲りにということです。先程述べたような危機感の中で、そして日本の農業を元気にやっていくためにも、政権として輸出を促進しています。もちろん、今でも輸出は伸びていますが、これからもっともっと伸ばしていきます。
もう一つは、生産の分野から流通加工分野に出ていくことです。流通加工分野はまだまだ伸びる分野ですので、その伸びる分野の付加価値を生産に取り込まないといけない、6次産業化や農商工連携などとわれています。そして、この二つの大きな方向にあわせて、農業の効率化もしなくていけませんので、大規模化し、農地中間管理機構を作るなどといったことも進めています。
農地中間管理機構は、やる気のある人たちが広い農地を借りられるように2年前に法律を通しましたので、着実にそれを前進させていきます。10年間で担い手(効率的かつ安定的な農業経営及びそれを目指して経営改善に取り組む農業経営者)が利用する農地の割合を現在の5割から8割まで引き上げることを目指しています。借り手は増えているのですが、まだまだ貸し手が少ないのが問題です。
こういった仕組みが理解されれば、だんだん出す方も増えていくと思いますし、税制改正で土地の貸し手が、出しやすい仕組みを作っていくことも検討しています。例えば、中間管理機構にまとまった土地を提供する際の優遇、生産できるのに耕作放棄しているものについての課税強化などです。その他、もちろん、古い時代遅れの政策をやめていくことも行っていきます。
片岡 通産省時代から含めていろいろな業界をご覧になられてきたと思いますが、農業は他の産業と比較するといかがでしょうか?
齋藤 農業ほど、今後伸びる可能性がある産業を見たことはあまりありません。これまでは農家も農協も農水省も「アジア太平洋地域を中心に、世界全体で食料需要が激増していく中、品質の高い日本の農業が一定のシェアをとれないわけがない」というような発想で農業に目を向けることはなく、そうした展開は当然できていません。
もちろん、検疫の問題であったり、流通にうまく入り込めないとか、スーパーで棚をもらおうと思うと高額の費用を要求されるとか、かなり苦労していることも事実ですが、他の産業でできたことは農業でもやれるはずです。必ず花開き、相当に伸びる余地を持つ産業だと思っています。そのためには、新しいことに挑戦をしていく、特に若い人が新しいことをやりたいというのをどんどん応援していく、そういう農政でないといけないと思っています。
その一方で、中山間地の本当に条件の悪いところでも農業をやっている人もいます。そういう人たちが全部失業していいというわけではありませんし、彼らもいろいろな役割を担っています。例えば水田には、保水や防災、国土保全など多面的な機能もあり、守っていくことも必要です。
片岡 食料安全保障の面についてはいかがでしょうか?
齋藤  日本は食料自給率が低いといいますが、最近日本の消費者は少しずつ変わってきています。よく地産地消といいますが、「新鮮で安全で美味しいものが、自分の家の近くで、供給できるということは有り難いことだ、国産の農産物をもっと買おう」、「世界の人口は激増していて、かつ、地球温暖化も進み、おかしなことがいつ起きらないとも限りません。
そういう中で、いざというときでも、ある程度国内で食料を供給できることが大事だ」という意識も高まってきていると思います。
今、議論していることの一つは、弁当の中に、どのくらい国産のものが入っているかをどこまで表示できるかということです。そのようなことを一つ一つやっていって、できるだけ国産のものを、意識が高い消費者が買ってくれるようにしていくことが必要です。食料安保は今まで以上に重要になってきているし、私自身、非常に大事だと思っています。

片岡 消費者の安全保障意識を十分に高めていくのは本当に難しいのでは? どのようにしていくのでしょうか?
齋藤 国の方は意識していますが、消費者は生活直結で毎日食べるものは安いものがいいという意識も強いし、安全保障の感覚もなかなか持てないと思います。例えば、食育をしっかりやったり、具体的な数字で説明をしていく、あるいは先ほど申しました弁当の中身の国産の表示の例のような試みを、とにかく一つずつ積み重ねていくことだと思います。
日本は海で囲まれていて、いざというときに食料が途絶えたら本当に大変な事態になってしまいます。他の国よりも、より意識して、何かあっても子や孫を飢えさせないためにも、国内農産物というものを皆がもっと食べないといけないというようにもらわないといけません。スイスのように、どことも同盟を結ばず、国連にも入らない、自分の国は自分で守るというような国は、いざというときのために国産の農産物をできるだけ食べようという安全保障意識を国民が持っています。
日本は海に囲まれ、自給率も低いのですが…。一度荒れた水田が生産可能になるには3~4年かかるといいます。それではいざというときには間に合いません。米の消費が減少していく中で、水田を維持していくには、主食米以外のコメや麦、大豆の生産を増やしていく以外に方法はありません。特に飼料米への生産シフトを進めていくことが必要です。
家畜の飼料となるトウモロコシの多くは輸入に依存しており、輸入量は年間1000万トンにもなります。この一部を国内生産の飼料米に置き換えることができれば水田を維持できますし、飼料の輸入依存度を下げることもできます。
現在のコメの消費量は年間800万トン、一人56キロほどです。1キロ400円程とすると日本人は年2万2000円~2万3000円、1日では60円強をコメに支出していて、これは缶コーヒー一本よりも安いものです。一方、飼料米の国内生産量は18万トンで、それに対して275億円の助成が行われています。
今後10年の主食米の消費減少分をすべて飼料米に置き換えると、およそ100万トンの飼料米となり、必要となる助成金の額はざっと試算すると1600億円程になります。これは一人一食あたりにすると1円強に相当します。もちろん、生産のシフトには、販売先を確保したり、物流ルートを整備したり、まだまだ多くの課題もありますが、一食当たり1円のお金があれば、飼料米への生産シフトが進み、水田も維持でき、いざというときに子や孫が飢えるような事態も避けられます。
そういう知識を正確に皆さん持ってもらえると、食料安全保障に対する理解も得やすいではないかと、いろいろなところで発信しています。とにかく、消費者に理解してもらわないといけない。これからは「消費者が日本の農業を助けてくれる」と思っています。
だからこそ、消費者にできるだけ理解される農政でなくてはいけないし、消費者に理解される農家・農業でないといけない。そういう発想の中で、農政を変えていく必要があります。農協も同じように発想を変えて、意識改革をして、そしてもっともっと自由にやって欲しいと思っています。
片岡 貴重なお話を有難うございました。
~完~
聞き手 片岡 秀太郎
1970年 長崎県生まれ。東京大学工学部卒、大学院修士課程修了。博士課程に在学中、アメリカズカップ・ニッポンチャレンジチームのプロジェクトへの参加を経て、海を愛する夢多き起業家や企業買収家と出会い、その大航海魂に魅せられ起業家の道を志す。

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