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「京」の100倍、エクサスケールのスーパーコンピュータ開発に挑むPEZY
「人が衣食住のための労働から解放される時代がやって来る」

㈱PEZYコンピューティング 代表取締役 齊藤元章氏に聞く

PEZYコンピューティング 代表取締役 齊藤 元章 氏

PEZYコンピューティング 代表取締役 齊藤 元章 氏

スーパーコンピュータ「京」より100倍早い、エクサスケールのスパコン(SC)を作ろうとしているベンチャー企業、PEZY(ぺジー)コンピューティング代表取締役の齊藤元章氏。「SCとAI(人工知能)が発展すればするほど、人は衣食住のための労働から解放される」と語り、人類が超知能を獲得するシンギュラリティ(技術的特異点)の世界が目の前に来ているという。昨年の日本イノベーション大賞に輝いた齊藤氏を訪ねた。

元々は放射線科のお医者さん(医学博士)であり、メカ好きが幸いしたのか、米シリコンバレーで各種診断装置や画像処理装置などの開発で12年間も米国にいた。

しかし、故郷である新潟県での中越地震や東北大震災が起き、数100万単位で人を救えるものに関わりたいと考え、日本に帰国、出会ったのがSCの世界だ。会社名のPEZYは、数字のペタ(10の15乗)、エクサ(10の18乗=1000兆の千倍)、ゼッタ(10の21乗)、ヨッタ(10の24乗)の頭文字をとっている。

「日本にある京の100倍、エクサスケールのSCを作れれば、人類の知性は数百億倍と、ケタ違いのとんでもない超知能が獲得できるようになり、人類に貢献できる」。模索している中で、理化学研究所の牧野淳一郎教授に後押しされ、SC開発に没頭した。2014年、経産省・NEDOの後押しを受け、1024個のコアを集積させたプロセッサーを使ったSC「Suiren(睡蓮)」が消費電力あたりの性能を競うGreen500ランキングでいきなり世界第2位を獲得した。

「開発期間はわずか7ヶ月でしたが、外注企業様の多数を含めて、日本人の優秀な才能を持った人材と勤勉さ、努力を惜しまないものづくりに対する献身性、品質に妥協しない職人気質と匠の技、これが成功の第1のカギです」。最大の課題であったSC冷却のための「液侵冷却」という新技術の開発が第2のカギとなる。
「マザーボードや電源や半導体の全てを一括で冷やすため、高沸点のフッ化炭素系の冷却液を気化させずに開放系で循環させるようにした。これがコンパクトで設備コストやランニングコストが大幅に下げられ、一石三鳥の効果を生み出しました」。

次に開発したSC「Shoubu(菖蒲)」と「Suiren Blue(青菖蒲)」は2015年6月のGReen500で世界一位、2位、3位(Suiren(睡蓮))を独占、2016年6月まで三連覇を達成している。「京コンピュータの100倍速い、エクサスケールのSCが最大の目標です。京コンピュータを単純にスケールアップすると、864台のラックを並べ、6階建てのビルと原発1基分の電力が必要です。我々の目標は2019年までに小さなオフィスに設置でき、京の10分の1の体積で、消費電力は20メガワットで動くエクサスケールSCです」。

そのため、2017年11月のGreen500のSC世界一を奪還するため、16ナノのコアプロッセッサを使った新型SCを現在、開発中という。「このエクサスケールのSCが出来ると、京で100日係っていた計算が1日で済むようになる。そして、この先20年で性能は100万倍、30年(2046年)では10億倍に到達する。となるとあらゆる課題がコンピュータ・シミュレーション可能となり、研究開発のスピードが格段に上がり、時間を掛けなくても課題が解決する時代となる」。

例えば、エネルギーで難しいと言われていた、超高性能蓄電池の開発ができてエネルギー・フリーの時代が来たり、植物工場等での食料生産が飛躍的に向上する。「つまり、人間は衣食住のための労働から解放されるシンギュラリティがやってくるのだ」。

しかし、その先人間はどう生きるのか?「それこそまだ見ぬ人類の課題に立ち向かう必要がある。宇宙空間からの問題(太陽フレアや巨大隕石や超新星爆発)、地球環境問題(大規模噴火や巨大地震や異常気象)など危うく難を逃れてきている人類の大問題にSCを活用してどう生きていくかを真剣に考えていく必要がある」。

それこそ地球規模のナショナルプロジェクトである。「最近、中国はスパコン開発に10兆円を投入し、中国の5大社会課題(エネルギー、食料、軍事、生命工学、公害・天災)の解決のために人・モノ・金を集中させてきている。極めて正しい考え方だと思う」。昨年中国はTOP500のうちの168台を占めて、初めて台数シェアで米国を凌駕した。来年は300台、2年後にはトップから450台のSCが中国で稼働している可能性すらある。

日本でも次世代のエクサスケールのSC開発のナショナルプロジェクトがアナウンスされているが、最近1-2年の遅延が発表されている。何と言っても期待はこの50名足らずの人員で奮闘するSCベンチャー、PEZYであろう。同社の次世代SCは1サーバラックで5億円程度。4ペタFLOPSの能力から見たら驚くべき安価でSCが使えることになる。現在、様々な機関からのオファーを受けつつある。「この神田の小さなオフィスにも液浸冷却で世界550番目の性能のSCが無音・無風で動いています。あらゆる人に1ボードレベル(100万円)からSCを利用してもらいたい。将来は現在のスマホがSCレベルになりますから」と明るい未来を語ってくれた齊藤氏は日本の宝としてリスペクトして欲しい人財の一人だ。

画期的な「液浸冷却」がコンパクト化を可能にした

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東京・神田のオフィスで稼動できるSC

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