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「優先席に見る誤解とモラルの低下」

木内里美(株式会社オラン代表取締役)

VUCA時代を乗り切れ!

日本の公共交通の車両には概ね優先席が設けられている。老齢者や妊婦や障害のある方に優先的に使ってもらう席のことだが、義務付けられているわけではなく各事業者が自主的に設けているようだ。
海外ではあまり見かけた記憶はないのだが、空港の移動バスなどには設けられていた。米国、カナダ、イギリス、フランスなどにも同様の「優先席」は設けられているそうだが、アジアではあったりなかったりする。その趣旨はどの国でも同じであることは間違いない。しかしそこには誤解がある。
優先席は対象とするような人々に優先的に座ってもらうために用意されている。タイでは僧侶もその対象だという。若い人や健常者が座ってはいけないわけではない。空いていれば座り、対象となるような人を見かけたら譲ればよい。どうもこの「譲る」ということが自然にできなくなっているように感じるのは私だけだろうか?
阪神電鉄は全席優先席という考え方から1999年に優先席という限定を全面撤廃したそうだが、席を譲るということが実行されないことから2007年に再設定したという。何とも情けない話である。私は優先席反対の立場を取っている。優先席があることによって混んでいる車両でも座らずに空けているとか、明らかに必要な人たちがいても率先して譲らないとか、本来の姿からは歪んでいるからだ。対象になる老齢者や妊婦や障害のある方々が、気まずさがゆえにその前に立つことを避けることもあるのではないかと思う。
こういう倫理に悖ることやモラルの低下はだんだんひどくなっているようだ。席を詰めずに荷物を置いたりする。車両の奥にも詰めようとしない。ドア付近に屯して乗降の妨げになる。まだ降りる人がいても我先に乗り込む。車内での飲食や化粧直しも気にしない。挙げ句の果てに包装紙や空き缶を置きっぱなしにする。笑顔もないままスマホの類に没頭する座席の一列は異様でもある。そういう些細なことの一つ一つが劣化している。車内やホームでの小競り合いもよく見かける。日本社会がギスギスしているように感じる。
長いことデフレが続き、経済的な劣化が影響しているのだろうか?日本社会の様々なシーンが人々にストレスを与えているのだろうか?弱者への目や譲り合いの精神が薄れ個人に埋没していくように見える。それは「おはよう」、「ありがとう」、「ごめんなさい」が素直に言えない氷のような社会の到来を危惧させる。

 

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